君が見せる刹那

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(結局、臆病な俺は、何も言えなかったけど……)  胸が痛む。当時は芹澤を好きだという感情が認められなかった。それでも、歯止めの効かない想いが叶を揺さ振った。  ある日の事だ。誰も居ない部室で眠る芹澤がいた。夕闇が迫る時間帯、薄暗い室内で机に顔を伏せて眠る彼が急に愛おしく感じた。叶は吸い寄せられるようにして、寝息を立てる芹澤の唇へと口付けた。すると――。 『……叶?』  芹澤が目を覚ましたのだ。彼は驚いた表情で自らの唇に手を添えた。その頬は真っ赤に染まっていた。 ――気付かれてしまった。 『っ……ごめん!』   居ても立っても居られなった叶は脱兎のごとく逃げ出した。 『叶っ……待って!!』  芹澤の声を振り切って。  その日から二人の間に微妙なズレが生じた。いや、叶が芹澤を避けるようになったのだ。  間も無くして、芹澤は突然、大学を自主退学した。教授の話によれば家庭の事情との事で、それ以上は何も教えてくれなかった。  スマートフォンも解約となっており、芹澤とは音信不通となった。  彼と会えなくなって、どこか安心している自分がいた。これでもう、どうしようもない感情から逃れられると。けれど、忘れられるはずもなかった。以後、女性と交際しても長続きせず、どこかで芹澤を想ってしまう。気が付けば大学を卒業して三年が経っていた。 「……俺の事はメグでいいよ。その芹澤望さんからの依頼で、あんたの事を調べて連絡した」  ミルクたっぷりのカフェオレを味わいながらメグルは質問に答えた。 「……芹澤から? 調べてって?」  何を頼まれたのだ。しかも、個人情報も漏れているようだ。叶は怪訝な顔をするしかなかった。 「そう、最後のお願いを託されたってわけ」 「最後?」 「うん。芹澤さん、先月に亡くなったから」 「……え?」  衝撃的な告白に鼓動が大きく打った。
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