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(……誰が、亡くなったって?)
理解が追い付かないままメグルを凝視する。
「死んだら、叶柊一さんって人に伝えて欲しいことがあるって、頼まれてたんだ」
「……伝えて、欲しいこと?」
戸惑い気味に返すとメグルはカップを置いた。そして、コートのポケットから一枚の写真を取り出し、叶へと手渡してきた。
「っ……これは」
見た瞬間に息を呑んだ。
写真に写るのは冬の海辺を背後に微笑む大学生の叶だった。覚えている。これは芹澤が撮ったものだ。サークル紹介用の写真を撮るため、デジタルカメラを持って一緒に出掛けた日の事だ。
今日と同じように冷たい風が吹いていた。彼に口付ける一週間ほど前だったと記憶している。
「その写真、芹澤さんがずっと持ってたんだ。亡くなった日は枕元に置いてあった」
「え……?」
震え声を向ける。小さく頷いたメグルは経緯を語ってくれた。
メグルの勤め先でもある、何でも屋を称する探偵事務所に芹澤から依頼が入ったのは、彼が亡くなる二か月前の事だ。
「この人を探して、僕が死んだら伝えて欲しい事がある」と、叶の写真を見せたのだとか。彼は余命僅かとの宣告を受けた直後で、末期のガンだったとメグルは言った。
「――でも、どうして芹澤は君のような探偵を使ってまで? それに、亡くなったって……」
半信半疑だった。伝えたい事があるなら、なぜ芹澤は生前にコンタクトを取ってきてくれなかったのか。叶は困惑を露にした。
「……答えはその写真にあるよ」
「写真に?」
意味がわからない。眉間に皺を寄せると、メグルが写真を返せと言った風に掌を出した。叶は素直に従った。
「……凄いな。気持ちが溢れてくる」
写真を眺めながらメグルが囁く。細められた双眸は微かに潤んでいるように見えた。彼は少しの間、無言で写真を見つめた後、叶の目の前で両手を翳した。
「な、何をして……?」
不可解な行動に叶は座ったまま上体を引いた。ガタンと、椅子が揺れた。
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