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君が見せる刹那
彼は、どんな想いを抱いてシャッターを切ったのだろうか――。
写真に刻まれた歴史や背景は人それぞれだろう。嬉しさや悲しさ、怒りや憎しみ、そして愛。悲喜交々、さまざまな感情が存在しているのかもしれない。
そんな事を思いながら、叶柊一は吹きすさぶ寒風から逃れるようにして、待ち合わせであるカフェの扉を押した。
平日の昼間。都心に佇む人気カフェは賑わいを見せていた。本当ならもっと静かな場所がよかったが、大手広告代理店に勤めて二年。営業社員として多忙を極める叶には昼休憩の時間しか空いていなかった。今日も午後から夕方まで訪問で埋まっている。
そんな叶が入店した途端、多くの女性客たちが視線を注いできた。それもそのはずで、叶は掘りの深い顔立ちに加え、人目を惹くエキゾチックさがあった。しかも長身だ。手足も長く、モデルのような出で立ちというわけだ。
(……まだ来ていないみたいだ)
羨望の眼差しなど全く気にも留めず店内を見渡すが、それらしき人物は見当たらない。
叶は奥に位置する二人用のカフェテーブル席へと向かいコートを脱いだ。着席してスーツの袖口から覗く腕時計を確認する。約束の時間は正午ちょうど。あと一分と迫っていた。
(まさか、遅れるとか?)
相手から呼び出しておいて、それはないだろうと眉を顰めていると……。
「……あんたが叶さん?」
「――!」
静かで凛とした声が届いた。ハッとして顏を上げると、ダークグリーンのモッズコートを着用した黒髪の男が立っていた。年齢は二十四歳の叶よりも少し若いくらいだろうか。
(これは……)
その姿に叶は瞳を釘付けた。男の容貌は一言で表現すると美しかった。切れ長の双眸にスッと通った鼻立ち。薄い唇も形がいい。まるで花びらのようだ。白い肌に生けるように映えていた。稀に見る美青年に叶はつい見惚れた。
「……なあ、あんたが叶さんって聞いてんだけど、違うの?」
「ああ、そうです。俺が叶柊一です。はじめまして」
席から立った。男の身長は百八十五センチある叶より頭一つ分小さかった。上着に隠れているが、その身体つきも華奢に思えた。
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