『吹雪の社』

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 ある雪のひどい日だった。朝も昼もない女はやはり吹雪を連れて歩いていた。  絶え間なく続く怨嗟は女の足を休ませない。  だがその目に奇妙なものを捉えた。真っ白い、一基(いっき)の鳥居。雪に打ち据えられてそうなったのかは知らぬが、霞むほどの純白を誇るそれに久しく足を止める。  その(のち)に一件、仄かに光るものが見えた。(やしろ)でもあるのかと近づけば、裏腹にそれは家の明かりだった。途端に苛立ちが募る。  だが妙なことに建物はそれ一軒で、社らしきものは見当たらなかった。  両の手を合わせたような屋根に厚く()った雪はぎしぎしと家を軋ませている。さながら寒さで家が縮こまっているよう。  古い(つくり)の家はそれだけで崩れそうで、実際よりも脆く見える。  戸を細く()ける。開けた先から漏れ出した、目の眩むほどの柔らかい(あかり)が女の黒い(ひとみ)()でる。  眩しさに溶かされないよう、徐々に戸を進ませるとほのかに栗の匂いがする。雪を吸って湿った柱が女を誘った。
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