好きな人間、ひとりだけ殺せるよ。

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ガシャーンッ! バシャーッ! 「ヤバくなぁい!?」 「マジ楽しいわ、このおもちゃ!」 「どう?気分は?暑いから気持ちいいかしら?キャハハハハハッ。」 ー 今日もか。 ー 柚奈(ゆずな)は、校舎最上階の隅のトイレの個室でずぶ濡れになっていた。 勿論、便器に落ちたわけではない。個室に閉じ込められ、個室の上から水が満杯に入ったバケツを投げ込まれたのだ。 扉の向こうでは、その首謀者たちが楽しそうに笑っていた。 「おい!何とか言えよ!」 「つまんねぇ。泣き声の一つくらいあげろよな!」 「…ちっ。」 ガチャ、ガチャ。 ドンッ! 「おい!鍵なんて掛けてんじゃねぇよ!生意気な!」 「出てこい!」 柚奈は、何も答えずに便器の上で膝を抱えて座っていた。いじめの首謀者たちは、そんな柚奈の態度に腹を立て、何度も扉を叩いたり蹴飛ばしたりした。 放課後の校舎。ほとんどの生徒は部活に励んでいるため静かだ。無音の大きな箱と化した校舎の中では、扉を叩いたり蹴飛ばしする音が、大きく木霊していた。 柚奈は、耳を押さえ、地獄の時間が過ぎていくのをひたすら待っていた。 「マジむかつくわ。」 「痛い目見ないとわかんねぇんじゃね?」 「…だな。これどうよ?」 「うわっ、それヤバイっしょ!下手したら死んじゃうんじゃねぇか?」 「ふんっ、大丈夫大丈夫。まぁ、仮に死んだって悲しむ奴なんて居ねぇよ。なぁ!!」 扉の向こうから柚奈に問い掛けた。 ー 私が死んだら悲しむ人…。 ー 柚奈は頭の中で考えた。 ー親?兄?…友達は…? ー 柚奈は考えれば考えるほど、虚しく感じて 自然と涙が溢れた。 ー 私、死んでも悲しむ人いないかも…。ー その時、一人の教師が物音に気が付いてトイレに駆け込んできた。 「おい!何事だ!?」 柚奈の担任の工藤(くどう)だった。 「ちょ、男のくせに勝手に女便に入ってきていいのかぁ!」 「校長に言うぞ!」 突然の教師の登場に、いじめていた3人は慌て始めた。 「うるせぇ!お前らの日頃の行動は校長も保護者会も承知済みだ。…また窪野か?」 工藤はそう言うと、扉をノックしながら柚奈に語りかけた。 「窪野か?もう大丈夫だから、扉を開けて出てきな。」 いじめていた3人は、舌打ちをしてそそくさとトイレから出ていった。 3人の足音が遠ざかったのを察した柚奈は、扉をゆっくりと開けた。 「…先生。」 「窪野、大丈夫か?うわっ、ずぶ濡れじゃないか!ったく、あいつら。…とにかく、体操服やジャージとかに着替えてきなさい。俺は逃げたあいつら取っ捕まえてくるから。」 工藤の言葉に、柚奈は頷きゆっくりと教室に向かって歩き出した。 柚奈は教室に着くと、誰もいないことを確認して扉を閉め、鞄からジャージを取り出し、その場で着替えを始めた。 「…うっうぅ…何で…私ばっかり…。」 柚奈へのいじめは、高校二年生となった4ヶ月前から始まった。いじめグループのリーダー格である三廻部明菜(みくるべあきな)に目をつけられたことがきっかけだ。 ただ、このきっかけというものは柚奈本人は分かっていなかった。急に始まった柚奈に対するいじめ。柚奈は4ヶ月の間、何故自分がいじめられているのかと苦悩し続けていた。 柚奈は、既にびしょ濡れのシャツで涙を拭いながら、上半身は下着姿になっていた。すぐに羽織ろうと机の上に置いておいたジャージに手を伸ばした瞬間、何者かに背後から口を塞がれ、抱きつかれた。 「うぅ!うやぁぁ…。」 叫び声を挙げたくても、塞がれた口からは助けを呼ぶことが出来なかった。 その時、窓ガラスに映る犯人の姿が目に飛び込んできた。 ー …工藤先生…。ー 工藤は何も言わず、柚奈の口を手で塞いだまま、片方の手を柚奈の胸に伸ばした。 「うぅ…いやぁ…。」 柚奈の耳元では、工藤の息づかいが荒くなってきており、恐怖という感情しか無かった。 柚奈は、耐えながら、机にぶら下げている鞄に目を向けた。鞄に防犯ブザーを付けていることを思い出したのだ。 柚奈はそっと、鞄に手を伸ばした。 「…動くな。」 工藤がぼそりと囁いた。恐怖心で硬直してしまった柚奈。工藤は柚奈が暴れないことを察すると、口を塞いでいた手を離し、そのまま柚奈のスカートの中に手を移動させた。 その時、柚奈は足を後ろに振り上げ、工藤の腹を蹴飛ばした。 「ぐっ…。」 予想外の柚奈の行動に怯んだ工藤。柚奈はその隙に、駆け足で教室を出ていった。
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