好きな人間、ひとりだけ殺せるよ。

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柚奈は、手にしている紙をじっと見つめた。 ー 誰か殺せる。私にツラい思いをさせてきた人たちを。…ダメ、それはダメ。 ー 柚奈は、首を横に振りながら自分に言い聞かせた。 柚奈はふと窓ガラスを見て、自分がびしょ濡れで、しかも上半身は下着姿だったことに気が付いた。 ー 服、着ないと。 ー 柚奈は工藤らに見つからないように、そっとドアを開け、教室を目指した。 その手には、カエデから貰った紙がギュッと握られていた。 柚奈は、教室に向かう途中、今まで受けてきた不幸なことを走馬灯のように巡らせていた。 今までは、思い出したくも無いという気持ちから、過去のことを考えないようにしてきたが、今は違った。 ふと、廊下の窓ガラスに目をやると、窓ガラスに映った自分が、悪人に見えた。とてつもない武器を手に入れ、勝ち誇っているような目をしてるような気がした。 ー あ、私今、一番死んでほしい人間を探してた…? ー 柚奈は、窓ガラスの中の自分に向かって、“間違ってる”と言い聞かせた。 「…ったく、マジで工藤の野郎ウザイわ。」 「次、あいつターゲットにする?センコークビにさせて、人生終わらせてやろうよ。」 「それやっばいわ。」 廊下の曲がった先から、三廻部たちの声が聞こえた。柚奈は、咄嗟にすぐ脇の教室に入り、教卓の裏側に身を潜めた。 柚奈は、三廻部たちの声を聞き、また良からぬ考えが頭の中を巡り始めた。 ー 三廻部…私が毎日ツラく感じるのは彼女らのせいよね。そして、きっと三廻部がいなくなれば、他の二人も大人しくなる。…三廻部さえいなくなれば…。 柚奈は、紙をじっと見つめた。 ー “ほうほう”って、どういう意味だろ? ー 紙に書かれている『なまえ』と『じかん』は何となく理解できたが、『ほうほう』と『びこう』がよく理解できていなかった。 ー ほうほう…“方法”のことだよね。…死に方? ー 柚奈は考えた。例えば屋上から転落死と書けば、そのとおりになるのか。柚奈は自然と三廻部の残酷な死に方を考えていた。 すると、三廻部たちの話し声が徐々に近付いて来ていた。 「工藤もだけど、窪野もムカつくわ。センコーに助けて貰ってよ。」 「で、どうする?この窪野の制服。教室に散乱してるって、どういう状況だったかよくわかんないけど。」 「今、裸だったりして!!」 「そんな制服燃やしちまうか!」 ー え!?ちょっと! ー ガタッ! 柚奈は動揺してよろけてしまい、教卓にもたれ掛かってしまった。 「ん?何か音しなかったか?」 三廻部たちは、柚奈のいる教室に入ってきた。柚奈は、教卓の裏側に小さく丸くなって身を隠した。 ー お願い、出ていって。 ー 「紙、使えば?」 急にカエデの声が聞こえ、柚奈は顔をゆっくり上げると、目の前にカエデが立っていた。 「柚奈ちゃん、あの女嫌いなんでしょ?殺しちゃえばいいのに。紙に名前書いて、時間は今、方法はそうだなぁ飛び降りてもらう?フフフ。備考にさ、仲間も道連れに、って書いたら、一緒にいる女2人も一緒に死ぬんじゃない?フフフフフ。」 ー やめて。 ー 「柚奈ちゃん、ねぇ今だよ。使っちゃいなよ。」 ー やめて。やめて。 ー 「柚奈ちゃんが救われるんだよ。あんな女死んだって、誰も悲しまないんじゃない?ねぇ、ほら。」 ー やめて。やめて。やめて。 ー 「人一人の命なんて、大したことないし、柚奈ちゃんが…。」 「やめてってば!!」 柚奈は、立ち上がりながら叫んだ。 「…はぁ、はぁ、はぁ。」 柚奈は泣いていた。目の前にいたカエデは、ふて腐れた顔をしながら、またスーッと消えていった。
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