絵は心のありよう

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 一枚の写真を、古いものだからスマートフォンで写真を撮って、わくわくしながら持って帰っきたのが先日のこと。満を辞して夕食の際、目の前のあなたに見せる。 「実家の掃除をしていた時に見つけたんです」  二人きりの食卓は、もう何年重ねて来たのか。ささやかで質素だけれども、落ち着いていて、しみじみと幸せで、あなたと積み重ねて来た時間が愛おしい。  あなたがゆったりとした仕草で、私のスマートフォンを受け取る。液晶画面が見づらいのか、何度も角度を変えて、スワイプして、老眼だから目を眇めて見ている。  私には古い写真があまり残っていない。撮られるのが苦手だからだ。いつも変な顔をして写ってしまう。出来上がった写真を見ると、我ながらブサイクだと悲しくなってしまう。恥ずかしくて見せられないと思う。だからレンズから逃げ回って、若い頃の写真などないと思っていたのに。 「これ、いつですか」  白髪の増えたあなたが聞く。 「二十歳の時ですよ」  シワの増えた私が答える。  当時の私は、こんな写真は不細工で見ていられない、そんなふうに思っていたけれど、今と比べればそれでもマシだ。それどころか、そこそこまあまあ、いけてるんじゃないかしらとさえ自惚れる。  結局一度も使わなかったお見合い用の写真だ。振袖を着て、めかしこんで、すっかり化粧気のなくなった今と違い目鼻もぱっちりと補正してあって、プロのカメラマンが撮った写真だ。今の私にとっては別人にすら思えるほど、溌剌としたエネルギーに溢れ、肌艶も良く、若いと言うただそれだけで美しい。少し照れて笑う垢抜けない表情も、年を重ねてから見る分には可愛らしいものだ。  あなたはどう言うかしら。可愛いと言ってくれるかしら。褒めてくれないかしら。  私はとても期待している。  あなたは写真から目を上げた。それから私の顔をしげしげと見た。 「やめてくださいよ。もうおばあちゃんなんですから」  恥ずかしくて顔を逸らしたら、あなたは少し慌てて 「すみません」  と謝った。 「あんまりにも今と変わらなくて、びっくりしたんです」  今度は私がびっくりする番です。それはどう言う意味なのかしら。  私は困ってしまって、少し笑ったら、あなたも少し笑って、 「食べましょうか」  そう言ってお箸を手に取った。  私もお箸を手に取って、あなたの顔を見て、頷いた。  一枚の写真がこんなにも、見る人の心を映すなんて。  垢抜けなくて見るのも嫌だった自分の姿を好きにさせてくれたのは、あなたです。
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