孤独な魔女の食卓人形劇

1/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 君はとっても鋭く、綺麗な目をしているんだね。毛深く、耳も大きい。血で汚れた牙を備え、その大きな口で私を食べようとしている。  待って  いいものがあるよ。異国の美味しい食べ物さ。カレーっていうんだ。種類は豊富。ビーフにチキン、グリーンにイエロー。野菜大盛りだったりフルーティーだったり。まぁ、全部レトルトなんだけど。  でも、どうやら君は気にいってくれたみたい。行く場所がないなら、少しここにいるといいよ。レトルトに飽きたなら私がもっと美味しいものを作ってあげる。こう見えても『天才人形師』なんだ。自称だけどね。人形達をパパッと操って古今東西ありとあらゆる美味珍味を食卓に並べてみせるよ。  君の恐ろしい瞳はいつのまにか輝き、潤っていた。わかる、わかるさ。孤独は辛く、カレーは辛いものさ。  たまらず、君を後ろから抱きしめた。まだ食事中の君は泣きながらも不機嫌そうな顔を見せる。でも、なんの抵抗もしなかった。そして、とっても温かかった。  朝になると、君は少女の姿になっていた。なんの変哲も無い少女。綺麗な紅い瞳の少女。警戒しているようだったけど逃げなかった。人形達に君の服を仕立てさせる。綺麗な瞳と長いブラウンの髪によく似合う、それでいてシンプルな動きやすい服。  君は気に入ってくれたみたいだけど、その日の食事で酷く汚してしまって、残念そうな顔をした。  愛らしかった。私の心に何かが満たされていくのを感じていた。  大丈夫だよと頭を撫でても伝わっているのかいないのか。  まぁ、いいよ。悲しい気持ちも吹き飛ぶ甘いデザートの時間さ。  これも気に入ってくれたみたいだね。嬉しいよ。さて、明日は何を食べようか。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!