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他人のことを語るように泉はそういった。そう、他人。
しっかりと持っていたはずの写真が手元から流れ落ちた。
――そうか、やっぱり僕は期限切れだったんだ。
勢いよく立ち上がるつもりが、やっぱり力が入らずふらふらになってしまう。でも、決めるしかない。そう、ドミノ倒しの原因はカメラではないのだ。
「写真を撮らせてくれないか。君とここの」
震えた声に彼女は少し口角を上げて答えてくれた。
場所は適当に選んだ。できる限り、彼女と空とひまわり以外が写らない場所を。どこで、どのように撮ったってやっぱり僕が撮った写真になるのだから。
カメラ越しに彼女を見て、綺麗だと思った。ひまわり畑と同様、どこまでも綺麗な世界が彼女を引き立てている。それは、この期限切れのフィルムをもってしても変わらない。
シャッターを切る。すると、写真は僕のカメラから現像された。今までの怪異が嘘だったかのように。
僕らは目を合わせた。言葉は発さず写るのを待つ。浮かび上がったのは色鮮やかな青と黄色、そして一人の女性の笑顔。
その写真を見ていると、乾いた笑いが止まらなくなった。少しだけ無意識の涙が汗とともに頬を伝う。既に一枚、彼女のことは写真に収めたはず。なのに。
自分が馬鹿馬鹿しく思えて仕方がない。もうどうしようもない思いが絶望する様子が惨めで仕方がない。
――佐野じゃないか、どっからどうみても。金髪が黒になろうが、陰鬱さが消し飛ぼうが、眼鏡をかけてなかろうが。ここに写っているのは佐野じゃないか。
僕という期限切れのフィルムで写していたことで、その顔はぼやけていたんだろう。分からなくなっていたんだろう。でも、たった今、最高傑作を撮った。ぼやけようが、彼女とわかる。僕が好きだった人だと分かる写真。
僕は失った色を受け入れた。
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