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夏といえばあれやこれやとあるけれど、怪談となれば語れるネタが一つある。とはいえ、それが起きたのは夏が始まる前のことなんだけど。とっても不思議な体験なんだ。
でもその前に、現実的にもっと恐ろしいことを言わせてもらいたい。僕は今、不登校の引きこもりなんだ。何かしらのトラウマを抱えているわけじゃなくて、ドミノ倒しみたいに一つが崩れてから色んなものがダメになっていった結果。
そんな僕の居場所は自室しかないわけだ。怪奇が起きたのはその自室。
僕は趣味というか、ルーティーンというか。とにかく機械のように三日に一度、決まった時間に決まった場所から決まった景色を、ポラロイドカメラで撮っては、現像された写真をアルバムに入れていたんだ。
異質だと思われるかもしれないけど、それでいい。ほかの人と違うというオリジナル性が欲しいんだと自分で思っている。一種の精神安定剤みたいな。
まぁ、そんなカメラ趣味にまつわる怪談なわけだけど。ある日、いつも撮ってすぐに現像されるはずの写真が出てこなくなったんだ。
最初はフィルムがもうダメになったんだと思ったよ。期限切れだったからね。僕の持っている機種は、ほとんどの機能はカメラじゃなくてフィルムにあるんだ。フィルムが正常じゃないと、カメラの電源さえ入らない。
でも、確認してみるとカメラの電源は入っていたんだ。試しにフィルムを変えて撮ってみたけど現像されなかった。あぁ、遂にカメラの方がダメになったんだなって思ったよ。
諦めて、カメラを置いて普段の生活を始めるんだけど、精神安定剤を打たなかったせいか、何もする気が起きなくてさ。何をするわけでもなくボーと窓の外を見ていたんだ。
すると、突然カメラが動き始めて写真を現像し始めた。すぐに駆け付けて、カメラを撫でたよ。動きが鈍くなっただけでまだ使えるんだと思って喜んだんだ。早速写真をポケットに入れて、写るまで待った。
でも、そこに写っていたのは窓の外の写真じゃなかったんだ。元々写りの悪いものでね。ここじゃない何処かってことしかわからなかった。心霊写真ってわけでもない、それはただ風景をとった写真だった。
面白いことに、僕は恐れるわけじゃなくて、その写真に心を惹かれていたんだ。期限切れのフィルムでも、撮り方や撮る場所によって作品になれるんだなって。
ほかにも出てこないかなと適当にシャッターを切ったけど、やっぱり現像はされない。と思うと、少し遅れて何枚か写真が現像される。数分おいて、浮かび上がった写真を見ると、さっきと同じようなここではない何処かの写真。
怪談ならここでおしまいだ。写真を心霊写真ってことにすれば仲間内ではウケるだろう。でも、怪談じゃなくなったこの話はもう少し続きがある。
勝手に現像された写真が七枚くらい揃った頃だった。すでに中身が見られるようになった六枚の写真を見比べてみると、花畑をそれぞれ違う角度や位置で撮ったものだと分かった。しかし、七枚目の写真は他の写真とは違ったタイプのものが来た。
『あなたは誰?』
メモ帳に濃くハッキリとそう書かれた写真。いきなりの人の気配が漂う写真に少しとまどった。写真に心を奪われるばかりで、そこに撮っている誰かがいるということを忘れていたんだ。
その写真を見て、何かが繋がった感じがした。今僕の撮った窓からの景色はどこに行ったのだろうか。この風景と言葉はどこから来たのだろうか。
僕が考えたのは、自分手元にある写真たちはどこかの誰かが撮ったもので、僕が撮った写真はその人のカメラから現像されているんじゃないかというもの。
この言葉を送ってきた人はいち早くそれに気づいて、交信を図ってきた。そんな、妄想。さすがに確信は持ててなかったけど、試すように僕は自分のメールアドレスを綴った紙を撮ってみた。
数分たってメールが届いてきたことには流石に動揺したよ。その不思議な現象にというよりも、こうも自分の予想がハマったことがなかったからね。こんな時に当たるって、やっぱり自分はおかしな夢でも見ているんだなって思った。
でも、夢じゃなかった。
そのメールの相手は、『メリー』という人物からだった。「これは貴方の写真ですか?」という内容で添付された画像は、色鮮やかに写し出された僕の部屋から撮られた写真だった。
ここからが異常なんだと思うんだけど、僕とメリーはお互いの考えが一致して、不可思議なことが身に起こっていることを理解したうえでお互いの活動を続けることになった。
『メリー』は偽名でただの一人旅が趣味の日本人女性だという。彼女も僕と同じで、残すことよりもそのカメラで何かを撮ることに意味を持たせているようだった。取った景色が自分のカメラから現像されなくても活動を辞めたくはないという。
僕にとってもそれはありがたいものだった。あのカメラで撮るからこそ意味があるのだ。カメラがダメになったからといって、携帯のカメラ機能で撮るのはなんか違う。それならもう撮らないということを選択しただろう。
そんなこんなで、僕とメリーの奇妙な関係が始まった。とはいっても、写真を撮った後にその報告をいれたり、フィルムがないから現像できないと向こうから連絡がきたりとかそのくらいだ。
彼女との交流は濁った日々を送る僕にとって少しだけ有意義なものとなった。彼女の写真が来るのは、彼女が旅をしている時のものだ。その写真が自分のカメラから現像されるのを見ると、まるで自分が旅をしているんじゃないかという錯覚に一瞬だけ染まれる。
残念なのはそれが期限切れのフィルムから浮かび上がってくることだ。本気で新しいフィルムがほしくなったけど、生憎引きこもりには金がない。魅力的な写真をきれいな姿で見たいという望みは今までの僕には無かった欲求だ。
少しだけ、無くした色を思い出せたように僕は感じていた。
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