僕は期限切れのフィルムでどこまでも綺麗な世界を写す

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 メリーはメールを見る限りだとかなりお茶目な人物という印象だ。とはいえ、まさかこんな形で連絡を入れてくるとは思っていなかった。普通にメールで言ってくれれば、気づくのが遅れることは無かったというのに。そもそも、いきなり家に来るというのも変だ。  彼女から送られてきた二枚目の写真は最寄り駅についたことを伝えるものだった。僕の家を完全に分かったうえで向かってきている。  でもまぁ、僕は部屋の窓からの写真を向こうに送っているわけだから、その気になれば住所を特定できるのかもしれない。  気になるのは、何を目的としてメリーはここに来ようとしているのかということ。写真を回収するためか。はたまた、この怪奇を面白がっているようだったし、その正体を探ろうとしているのか。   そんなこと考え、部屋をある程度片づけた。一息つこうとした瞬間、呼び鈴が鳴る。いつもは甲高い声と共に母親がすぐに向かうのだが、今は仕事に出ている。この時間の来訪者は、無視するのが僕の鉄則なのだが。  カメラから写真が現像される。期限切れだといっても、フィルムには限りがある。家に着いたことを伝えるなら、メールでも十分なのに。  ドアの前まで行っても、そこまで緊張はしなかった。どうやら、案外引きこもりの症状は軽症なのかもしれない。自分が思っている以上に自分は弱くはないのでは?  そんな思い込みの勢いに任せて僕はドアを開ける。少しだけ、防犯意識や顔の知らない相手に出会うということへの危機感を覚えたが、もう遅い。 「こんにちは」  目が合った瞬間に挨拶をされた。その綺麗に澄んだ瞳に吸い込まれそうな感覚に陥っていた僕は、その挨拶を返せない。それでも、その女性は、優し気な笑顔を見せて軽く一礼をした。 「メリーです。写真はちゃんと届きましたか?」  夏の日差しの強さか、その女性の笑顔か。僕はただただ目を細めて「どうも」と消え入りそうな言葉を吐いた。
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