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かなり遠くまで来た。今日知ったことなのだが、どうやらメリーは僕と同い年だったようだ。金のない大学生二人が、大した贅沢もせず、最安値ルートでやってきた。
旅とはこうも疲れるものだったとは、電車の中で何時間も揺られ続けられたこの身体はもうボロボロだ。
「ここから徒歩ニ十分程度です。一応バスもありますよ」
「君が決めてくれ」
恥ずかしい話。金はすべて彼女が出してくれている。親に彼女のことを話すとややこしいことになる。僕と彼女を繋いだのが怪奇現象だということが本当に厄介だ。
何も言わずに出て行ってしまったから、いらぬ勘違いをされていないかすこし心配なところ。僕も両親も、お互いまだまだ成長が足りない家庭なんだ。
「じゃあ、徒歩ですね。途中でおいしいうどんの店があるのでいったんそこで昼食も取りましょうか」
時計を見るとすでに十四時半。でも、時間にルーズな感じが旅っぼくていいのかもしれない。しっかりとした足取りの彼女をふらふらと追いながら、僕らは進み始めた。
その道は一度も訪れたことがないのに、なんだか懐かしいような気がしていた。車で通ったわけじゃない。テレビで映るような場所でもない。というか、歩き見た風景が記憶の何かと重なる。ふらついた足取りと、おぼろげな記憶にため息を漏らしながら、炎天下の下涼しい風に煽られて歩く。
雄大に広がる田畑。上空を染め上げる青と白。彼女の背中。そんな、どこか黄色い夏の風景に囲まれながら、僕はあの窓に戻りたくなっていた。
そんな憂鬱をコシのはいった冷たいうどんと共に流し込んで、十数分。僕らはやっと目的地にたどり着いた。
「一人旅って、気楽でいいんですけどね。たまに大きな欲求に悩まされることがあるんですよ」
目の前に広がる光景に圧巻されている僕の横で、彼女は静かに語る。少し声が震えている。
「最高の光景を誰かと共有したいっていうやつです。私が見ている光景は本当に綺麗なのか。これくらいの感動をもっていいものなのかって」
その言葉を聞いて、少しほっとした自分がいる。そして、『あぁ、そういうことか』と思った。知らずのうちに彼女と同じ欲求を抱いていたのだ。
「どこまでも、綺麗だと思う」
彼女の思いに応えるためにそう呟く。言った後に少しだけ馬鹿っぽいなって気づいて「センス無くてごめん」と笑った。
「いや、大丈夫ですよ。本当にどこまでも綺麗だし」
真剣な顔で彼女は答えた。そして、両手の指で額縁を作り、その光景を収めた。僕も、それを真似する。
手前を見れば緑と黄いろ。でも奥を見れば見るほどそれは黄色一色になっていく。地平線まで続くようなひまわり畑がそこにある。どこか子供っぽいその黄色は夏の青空とよく合う。
ひまわり畑を見ていても、どこかデジャヴを覚える僕だったけど、これは案外早い段階で気づくことができた。
「君が最初に送ってきた写真はここで撮ったもの?」
「そうです。別に子供のころに来たとかいうわけじゃないんですが。ここには多分思い出があるんです。だから、あのフィルムで正解だった。でも、今回は過去の思い出とか関係なく、今を写しに来た」
彼女がシャッターを切る。するとやっぱり僕の方のカメラから現像される。少したって、中身を確認すると青々とした空の白で爛々と輝くひまわりたちの世界が浮かび上がっていた。これは、期限切れのフィルムじゃない。この日のために、新しいものを買った。というか、買ってもらった。
「あぁ、でもやっぱり違うなぁ。そのカメラ自体古いタイプみたいですし。なんかやっぱり、どこか味のある絵になるみたい」
それでも彼女は気に入ったようで、少し嬉しそうな表情で写真をしまう。
「んじゃ、ひとまず解散しましょう。お互い最高十枚」
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