僕は期限切れのフィルムでどこまでも綺麗な世界を写す

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 最初っから撮るのは一枚だけのつもりだ。最高の一枚。僕は一銭も出していないから、あまり撮る気にはなれない。でも、せっかく来たなら取るべきだ。というわけで一枚。  とはいえ、どの場所、どの角度でもいい絵が取れそうな幻想的世界。センスのない僕は最高のポジションというものが見ただけではわかったりしない。そういうのは何枚も取っているうちに自然と身につくものなのではないのだろうか。  そんなこんなで歩き回っていたけど、体は流石に限界が来ていた。自動販売機が並ぶ小さな休憩スペースのような場所のベンチにとりあえず座る。  冷たい飲み物を口に含みながらも、どこかそわそわしてしまうのはメリーから写真が送られてくるのを期待しているからだろう。彼女は一体、どこからどんな写真を撮るのだろうか。  そんなふうに思いを馳せていたら、送られてきた一枚目。現像されたことの連絡を彼女に入れて、僕はその写真が写るまで待つ。  現像された写真はやっぱり、僕を魅了する作品だった。でも、そこで気づく。また、デジャヴだ。さっきメリーが撮った写真はそこまでじっくり見ることができなかったから感じなかったんだろう。  目の前にある写真を見つめる。彼女から遅れてきた最初の写真。それ以外に、何かある。これは、道中に感じたモヤモヤと似ている。ここならテレビで見たとかありそうだけど、違う。  そして、一人の少女が語った世界を思い出す。  ――何かが繋がっていくのは一瞬だ。
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