二人の思い出

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彼女が死んだ。 突然の事故死だった。俺は涙を流す前にただ唖然とするばかり。 付き合い始めて三年。お互いの両親にも紹介し合い、さあこれから、という時の幸せの暗転。 知らせに病院に駆けつけ、臨終に立ち会えたのがせめてもの慰めだった。 しかし俺は彼女の、いまわの際の言葉が気になっていた。 苦しい息の下、「ありがとう」と言ってくれたそのあとの唇だけの動き。 『もう一度、やり直したかった』としか読めなかった。 それって、別れた恋人に言うような台詞じゃないか、何であんなことを彼女は言ったんだろう? 俺は彼女の部屋を訪れていた。 もうこの部屋も来月には、片付けられてしまう。 部屋を見回して彼女の思い出を忍ぶ俺はふと、机の上の分厚い本が気になった。 さっきここに来た時にあんなものがあっただろうか? いや、ドアを開けてざっと見回しただけで、断言はできないが、確かにあんなものはなかった。 彼女がそっと置いてくれたような気がして、俺はその本を見やる。 「二人の思い出」と書かれた、昔風の装丁で分厚い台紙のアルバムだ。 そういえば彼女は写真が好きだったな、俺は思い返す。 スマホに納めるだけでなく、彼女は二人の写真を印画紙に現像して持ち歩くのを好んだ。 それについての俺の問いに、 「私達の姿が『もの』としてあるって、素敵でしょ?」 と彼女は微笑みで返してくれたっけ。 俺は分厚い表紙を開いた。
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