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九時 四十分 学生寮 二〇一号室
カーテンを締め切った四畳半の部屋で、小野 雄介は布団に身を包んでいた。今日は講義もなく、惰眠を貪るにはうってつけの日だ。小野が夢に入り浸っていると、携帯から着信音が鳴り響く。
(なんだよ……せっかく寝てたのに)
腹立たしく携帯を手に取り耳に当てる。
「はい、小野です」
「小野君? 奥田だけど」
電話口はバイト先の店長だった。
「なんですか?」
「ヨッシーがまた来ないのよ。悪いけど連れ出してきてくれない?」
”ヨッシー” ──吉田はバイト先の後輩だ。吉田は度々、無断欠勤をする癖があった。穴埋めの為に小野が駆り出されることも何度かあった。
「家も知りませんし、今から連れ出しても、シフト上がりにすら間に合いませんよ?」
「出勤じゃなくて怒るだけだから、来るのはいつでもいいわ。ここ一週間で四回もバックレてるし、連絡もつかないのよ。心配じゃない?」
「確かに……」
吉田は遅刻の常習犯だし、仕事も適当だし、ノリも軽い奴だが、ここまで無断欠勤する事はなかった。心配でないといえば嘘になる。そして何より、小野は根っからのイエスマンで、今日は一日オフである。
「……わかりましたよ」
「助かるわー! じゃあ住所教えるわね!」
小野は自分の便利さに自己嫌悪しながら、机のメモ帳を取り出した。
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