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一日目【言葉を失った】
「二度とその面見せんなよこのクソガキども! 解散! 帰れ!」
高校二年生。香風ノノは四限授業担当であり、担任の細川の中指を立てたその叫びを聞いて事態の深刻さを理解した。
それは一週間後に隕石が落ちて日本とアジア大陸の一部が海に飲まれてしまうという話。
半信半疑の生徒たちは、逃げるように教室を出ていく細川の様子を見てパニックに陥った。親に電話・無意味に抱き合う・うおおおと叫びだす・泣きだす。ノノは一応親に電話を入れたが出なかった。
名残惜しくその場に残る生徒たちを横目に、彼女は教室を出ていく。まだ皆冷静でいられるのは、既に国によって海外への移民、海外ではその受け入れの準備が始まっているという情報があるからだろう。
思い出の場所がなくなるだけで、私たちは生きていられるのだ。
だからこそ、ノノはこの終末気分を少しでも味わっていたかった。ノスタルジーにひたり、やりたいことをやってやる。そんな意気込みを持っている。
花の乙女、香風ノノはポエマーだ。詩でも歌でもなく短文の中に思いを込める。誰にも見られることはなく、彼女は中学時代から書き続けている。
ノノにとってこれはチャンスだったのだ。終末気分を味わい、自己を満たせる作品を書く。そして、終わりゆく日本に置いてゆき、今まで書き溜めた思いが、この土地と共に、思い出の場所と共に死んでいく。想像するだけで、描きたい思いが止まなかった。
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