終末は主にポエムを書いています

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 家に帰り、母が作ってくれた弁当を食べる。料理が苦手な母の弁当は冷凍食品が多いが、チョイスは悪くなく旨かった。  口に運びながら、この世の終わりのような。いや、この世の終わりを語るニュースをノノは見ている。どうやら、テレビ局の人たちは最後までこの国に残り、記録を残そうとしているようだ。  移民活動は五日間で行われ、落下二日前からは移動時に災害に巻き込まれる可能性があり、日本は閉鎖されるという。  なら急いだほうがいいのかな。と不安を募らせたノノは一応もう一度親に電話することにした。  今度はちゃんと繋がった。しかし、出たのは母ではなかった。 「ノノちゃん? あなた、ノノちゃんでしょ? どうしよう、貴方のお母さん……チエリさんが」 「? どうしたんですか。貴方誰ですか」 「ごめんなさい。ごめんなさい。私、甲斐です。お母さんの同僚。それでね、落ち着いてきいて欲しいの」 「……甲斐さんが落ち着いてください。どうしたんですか? お母さんは?」  嫌な汗が流れる。ふとテレビの方に目を向けると、パニックによって各地で事故や暴行・犯罪が起こり始めているというものだった。  中継のキャスターに向かって石を投げつける男の人が写るっていたりもした。  ――ここが日本? どこ、ここ。 「チエリさん、動かないの。私の目の前で、変な男に刺されて。救急車呼んでも来ないの。もう、一時間も経つの。私どうしたら」 「……え?」 「ごめんなさい、ノノちゃん。ごめんなさい。私も、息子がいるの。今日迎えに来てくれるの。これ以上待てないの。ごめんなさい」  唐突に切れた。何度もかけ直したが、繋がらない。代わりにかかってきたのは、見知らぬ電話番号。その正体は警察だった。 「香風ノノさんだね。今家? 学校?」 「……家です」 「今そこにお母さんは? 誰か大人の人いる?」  優しい声音だが、何処かイラつきが感じられる威圧的な言い方だった。焦っているようにも見えた。彼らも同じ時間に生きて、終末に追われているのだ。それなのに、テレビの人達みたいに働いている。 「いないです。私一人」 「お母さんの電話、繋がらないけど、今どうしているかわかる?」 「お母さんは……死んだっぽいです」  自分で言ってみたものの実感がわかない。でも、電話の向こうの男は憂いを帯びた憐みのようなため息を吐いた。その後の声音には優しさしか感じられなかった。それがノノには痛々しくて、どうしようもない。 「ごめんね。こっちも時間がないんだ。だけど、自棄にならないで。君は僕が迎えにいく。絶対に」 「どういう……ことなんでしょうか」 「君のお父さんも、今お亡くなりになったんだ。事故だ。もう、どこにも法が効いていない。道路では法定速度を無視して車たちが走っている。事故がたくさんの場所で起こっている。僕たちは、渋滞になった人々を誘導することしかできないんだ。君のお父さんに、何もできないんだ」  それでも、彼はノノに電話をしてくれた。感謝をしたいのに、言葉が出なかった。 「大丈夫。四日……いや、三日後だ。必ず、君のところに行くから。自暴自棄になってはだめだ。親御さんは絶対それを望んでいない。いいね」 「……大丈夫です。避難は友達の家に相談します。すぐに出ていくみたいなのでそちらに同行することに」 「……そうか。何かあったらまたこの番号に電話をしてくれ。一応、落ち着いたら僕からも電話させてもらう。何度も言うが、君は生きるべきだ」 「はい」  今度は自分から。携帯を切った。  自分の部屋まで向かい、ベッドの上で横になる。終末週(エンドウィーク)と呼ばれだしたその一週間の初日を彼女は無で過ごした。  誰かを待つように、起こしてくれるのを待つように。
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