第五話 メリーさんとツメ

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「あぁ……“この人形は私が三十年以上かわいがってきたメリーさんです。この度、あなた様が確実に過去に戻れますよう私からもたくさん、たくさんお願いを込めました。彼女には口では言えないようなことをいっぱい、いっぱいしました。きっと、妬み嫉み恨み……持ってくれたと思います。あなた様のために私の大切な、大切なメリーさんをお譲り致しますので、くれぐれも失敗のないようにちゃんとやってくださいネ♪”と、トリセツには書いてあるぞ……」  読み上げる敏也の声から緊張が伝わってきた。  ノブオはこっそりメリーさんを箱に返す。 「なんだよ! やる前からもう怖すぎるじゃねぇか!! やっぱりやめるだろ? なっ、敏也?」 「何を言ってんだ!! ここまで来てもう、後戻りなんかできねぇ!! さぁノブオっ!!! その箱の中につめ切りが入っているはずだ!! つめを切れぇぇい!!!」  しゃがんでいたノブオの両肩を敏也は上からガッと押した。不意打ちを食らったノブオは尻もちをつく。そのすきに敏也は箱からつめ切りを取り出すと、ノブオに突き付けた。 「や、やめてくれ!? おっおっ、俺、昨日つめ切ったばっかりだから!!! 深づめしちゃうから!! ムーリーッ!!!」  両手のつめを敏也に向けながらもその手をフルフル左右に振り、ノブオは敏也をかく乱しようと試みる。 「……そうか。それじゃあ、しょうがないよな……」  残念そうにノブオに背を向けると敏也は自身の手のつめを切り出した。ペッと一枚取ったティッシュの中に入れ包む。
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