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第二話 再会②
「まぁなんだ……ちょっと、あがっていけよ。お茶ぐらい出すからさ」
敏也はそう言ってノブオを促す。だが、明かりのついていない暗い廊下にはゴミなのか生活用品なのか、ぱっと見では判別できないほどに物が散乱していた。
この先は一体どうなっているのかとノブオはためらう。
「あぁ、いや……あっ! この後、実はキャテリーヌちゃんの散歩に行かなくちゃなんなくてよ。残念だけど……」
「キャテリーヌちゃんの散歩? なんだよ、それ?」
不機嫌そうに敏也はノブオの手をつかんだ。もう家に引っ張り込もうとしている。
「えっ!? し、仕事だよ! 俺、今は便利屋みたいな仕事やっててさ。こうやって荷物の配達もすればペットの散歩や世話、掃除もするし買い物代行、人探し、パン屋の行列に並んでサクラもやるし……何でもやるんだよ。依頼があればほぼやるかな」
手をつかまれたことに驚きつつも、今までやってきた仕事がノブオの頭の中を駆け巡る。よくやってきたものだと自分を褒めてやりたい気持ちになった。
「……へぇー! お前すごいな!! 俺にはとてもできそうにないよ!! いやぁ、ノブオ!! 本当に立派だよ!!!」
「へっ!? そ、そうかな……」
「おお、そうだよ!! 誰しもができることじゃない!! いやぁ、ノブオの話をもっと聞きたいなぁ!! それに俺、ちょっと悩んでることがあってよ。ぜひノブオの知恵を借りたいんだ!! なっ? ちょっとだけお茶、飲んでけよ。頼むよぉお……」
一段下の土間に下りノブオの背後に回る敏也は、その肩を抱えるようにしてがっしりつかむ。そして体ごと上にのぼるように促すので、ノブオは釣られて一段のぼってしまった。
「悩み事!? うーん、まぁちょっとだけなら……せっかくこうして再会したんだしな」
急におだてられたノブオの気分は悪くない。キャテリーヌちゃんの散歩には間に合うだろうし……
そのまま暗い廊下に二歩踏み出すと、いきなり床に落ちていたトースターに右足をぶつけてしまった。いてっ、と声を上げてしまう。
「あぁ、悪いな。気を付けてくれ」
へへっ、と不適に敏也は笑った。
敏也からはしめしめという言葉が音になって聞こえてきそうな雰囲気がある。
それをなんとなく察知し始めたノブオは家に上がったことを後悔しつつあった。
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