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エピローグ
ベッドの上で僕の書いた小説もどきを読んだ皇太は「相変わらず暗いやつ」と骨ばった顔で笑った。
「まあね。けどこれでわかったでしょ?お前が死んだら僕の人生までその死に巻き込まれるんだよ。お前は独りじゃ死ねない」
「……まいったね。やっかいな友達を持ったもんだ」
「それに僕、お前が昏睡状態だったこの三ヶ月、本当に大学辞めて旅館で働いてたからね。料理長くっそ怖いしさあ、毎日どなられたおして。それもお前のせい。だから責任とって家継いで、僕を雇ってもらわないといけないわけ。僕の人生まるまる皇太とのコネにかかってるんだから、しっかり生きて僕を養ってもらわないと困る。これでもう死ねないでしょ?」
皇太はしばらく何も言わず俯いていたが、やがて肩を揺らして笑い出した。
「ほんと、中也って頭おかしいよな」
「ありがたく思え」
「ああ。さんきゅーな」
「ま、本当にそう思えるかどうかはこれから長いこと生きてみないことにはわかんないけどね」
「こういう形のメンヘラもあるんだなあ、勉強になったわ。えらく高い授業料だけど」
「人生賭けてやったからね、勝手に。レートはマックスだよ」
皇太は目を背けたくなるほどやせ細った腕を伸ばして原稿をテーブルに置くと、大きく伸びをした。
「はー、仕方ないなあ。生きるかあ」
深いため息がシンクロし、僕らはぷっと吹き出した。ああ、それくらいでいいんだよ、と僕は思った。無理に頑張って生きなくても、仕方なしに生きたって、それでいいんだ。死んだ方がよかったって思えるくらいなら、きっとどこかで、生きててよかったとも思えるだろうから。
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