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僕は胸が強く痛んだ。無言の視線や空気には慣れていたが、このように直接的に言われたことは初めてだった。しかしそんな僕の顔色を見て、彼はすぐに手を振った。「いや、そういう意味じゃなくてさ」と彼は周りを確認して、さらに声を落とした。
「はっきり言って、アホばっかじゃん。なんだろうね、この茶番。お前もそう思ってるんだろ?」
でも君は、と僕は言おうとしてやめた。この茶番の中でも主役を演じている彼が、そんなことを思っていたことに驚いて、何も言えなかった。彼は僕が思っていることがわかるように笑った。
「まあ、俺は慣れてるんだよ、こういうの。正直得意。中也は、下手くそだな。さっきから見てたけど」
「なんで?」
どうして、そんなことがすぐわかるのだろう。どうして、自分なんかを見ていたのだろう。
「なんでかなあ。俺も結局、寂しいのかもな、独りが」
「独り?」
「そんなとこに反感持つなよちっちぇえな。まあ、とりあえず風呂行こうぜ、準備して下で待ってろよ」
そう言って僕の肩を強く叩くと、皇太は背を向け手を振ってさっさと自分の部屋に戻っていった。僕はよくわからなかったが、彼といる方がまだマシだということも確かだったので、胸の動悸が収まるのを待ってから部屋に戻った。まだ部屋に残っていたメガネ二人がゲームをしていたが、僕にはもう見向きもしなかった。どうでもいいか、と思ってタオルと下着を袋に詰めると、僕は皇太の言う通り下のロビーに向かった。しかし大浴場は確か上にあるはずだった。
リュックを背負って降りてきた皇太は、右手の人差し指で車のキーを回していた。彼は先ほどと同じ服を着ていて、上着まで羽織っていた。寝巻きのスウェットに着替えていた僕はそういうことかと思い「着替えてきた方がいい?」と尋ねた。
「いいよ別に。ああ、寒いかも?」
「まあ、面倒だね」
同じバスに乗ってきたはずなのに、どういうわけかホテルの前には皇太の車が用意されていた。小さなスポーツカーで、カプチーノという名前だと彼は言った。車のことはよくわからないが、可愛いと思った。背の高い彼は低い車内に滑らかにその体を滑りこました。その動きはなんとなく品のあるものに感じられた。体の硬い僕は手足を折りたたむように不恰好な姿勢で乗り込まなければいけなかった。
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