16人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫?」
「どうかな」
皇太は意味もなく笑って、太ももに落ちた灰を払い落とした。エンジンをかけ直し、ギアを入れ替える。辺りはずっと、全く静かだった。
「死にたくないんだ」
しばらく無言で車を走らせてから、煙草を揉み消して皇太は言った。
「けど、どうすれば生きられるのか、わからないんだ。なんでお前を誘ったと思う?」
「僕も、そう思っているように見えたから」
正解、と言いながら皇太は新しい煙草に火をつけた。運転しながら器用なもんだ。ならさっきもわざわざ信号で停まらなくてもよかったのに。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「どうしてかな。わかる時があるんだよな。俺んち、葬儀屋だからかな」
そう言って、彼は煙草を咥えたままおかしそうに笑った。
「なら、天職かもね」
「なあ、なんで人は死んじゃいけないんだと思う?」
どうして人は死んではいけないのだろう?本当にそうなのだろうか。考えてみたが、よくわからない。面倒だからだろうか。死ぬよりも、だらっと生きている方が、楽だから?何度か僕も考えたことがあった。けれどどういうわけか、眠くなるのだ。
「例えばさ、トラックに轢かれそうになったところを助けられた時、助けてくれた人に、助けてくれてありがとうって言うでしょ。それってつまり、助けられて、生きててよかったと思ったからだよな。死んだ方がよかったって思ってたら、むしろどうして助けたりしたんだって怒ることになる。けど、そんな人普通いないじゃん。つまりほとんどの人は、生きててよかったって思ってるってことだ。それはいったいどうしてなんだ?生きててよかったがあるなら、死んだ方がよかったがないとも言い切れないじゃん。助けた人はその人の人生をまるっと知ってるわけないんだしさ、そんなこと考えてたら助けらんないもんな」
「……比較できないからじゃない」
最初のコメントを投稿しよう!