夏休み

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夏休み

 大学生になってから初めてのお盆休み、ようやく慣れ始めたアルバイトもこの期間は休みだった。というのも、アルバイト先というのが片町という飲み屋街にある個人経営の居酒屋なので、マスターが休みたいときは休みになるのだ。というわけで、それを知らなかった僕の前には突然ぽかんとなんの予定もない日が広がった。といっても、普段からそれほど予定が詰まっているわけではないのだが。誰かとの約束事に縛られるのはあまり好きではなかった。  よっす、と勝手に玄関を開けてアパートに入ってきた皇太は自分の家のように冷蔵庫を開けてコーラの二リットルボトルをラッパ飲みしてから靴下を脱いだ。バイト上がりでぼうっとウイニングイレブンをプレーしていた僕はそんな皇太には慣れたものだったので振り返りもせず能力が向上しまくったレバンドフスキで三点目を取ってリーグ戦第十五節を勝ち切った。隣に腰を下ろして皇太がコントローラーを拾い上げるので「やるか?」と尋ねてマスターリーグを保存した。 「じゃあ明日から暇なんだ」 「そーねー。皇太はまた海外?」 「いや、もう飽きた。クロアチアでも午前中はほとんど寝て過ごしてたし」 「嫌味なやつめ」  だから縦パス一本で裏に抜け出してドログバで逆転のゴールを決めてやった。 「ちょっとドログバせこくね?ディフェンス追いかけても何もできないじゃん」 「パワーイズジャスティスですよ」 「てかそっちのキーパー止め過ぎだし。こっちのやつシュート打たれたらなんか腰抜かすだけじゃん」 「言い訳はやめたまえ。強い方が勝つんだよ」 「決定機こっちのが多いし」 「サッカーにはね、芸術点なんてものはないのですよ。素直に負けを認めたまえ」
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