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つまんねー、とコントローラーを投げて寝転ぶ皇太のコーラを飲み干して僕もコントローラーを置いた。時計はもう二時前を指していた。
「腹減らね?」
「減らない。まかないでお腹いっぱい」
「なか卯行こうぜ」
「話聞いてた?」
まあいいじゃん、と言って皇太は跳ね起きるともう靴下を履いている。まあいいけど、と立ち上がってゲームの電源を落として財布を探す。だいたいいつもこの通り、皇太に引っ張られていた。別にそれで居心地良かったし、僕には特にやりたいことなんてなかった。
蒸し暑い月明かりの下、二人で赤いママチャリに乗って駅前の方へ走った。僕の方は中古屋で三千円にまけてもらって買ったものだが、皇太のは学校の自転車置き場に捨て去られていたボロボロの自転車から綺麗な部分を外しとって二人で組み立て直した代物だ。だからあまりこんな夜中に乗っていて警察の防犯登録チェックなんかにひっかかるとマズイことになる。そんなスリルも彼の楽しみの一つだった。
「なんかさー、どっか行きたいな」
「飽きたっつってたじゃん。てかクロアチアのお土産もらってないんだけど」
「中也の実家って三重だよな?このまま進んだら行けるかな。行けるよな。全ての道はローマに通づるって言うし」
「ローマ行ってんじゃん」
「なあ、このまま中也の実家行こうぜ」
「は?いやなか卯は?」
「腹減ってないって言ってたじゃん」
「僕はね?てか本気じゃないよな、僕クロックスなんですけど。財布しか持ってないし」
「大丈夫っしょ」
「冗談だよね?とりあえずなか卯行って落ち着こ?」
ははは、と笑うと皇太は電灯の白い光の中を立ち漕ぎしてどんどんスピードを上げていく。
「ちょ、待てって、僕行かないよ?」
慌てて僕も追いかけるが、何が楽しいのか彼は真夜中に大声でピロウズの「I know you」を歌いながら遠ざかっていく。
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