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「誕生日なの?」
「そうだよー、今日ね」
「ほんとに?おめでとう。じゃあ優香ちゃんのが年上になるのか」
「そうなるね、不服?」
「ちょっとね」
「言うじゃん。中也くんはいつ?」
「九月」
「んー、二十日?」
「惜しい、二十五日。あばれる君と一緒」
「嬉しいの、それ」
「じゃあ、浅田真央ちゃんと一緒」
「そっち先に言おうよ」
メニューを戻しながら優香は笑った。よく笑う、いつも元気な太陽みたいな子だ。僕とは正反対。紅茶が運ばれてきて、彼女は大げさに手を合わせた。
「改めて、誕生日おめでとう」
「ありがとう。まあ、本当は十一月なんだけどね」
「は?」
「あはは、また騙された」
僕は目を細めて彼女を睨んだ。まだ出会って数日だが、彼女はよく無駄な嘘をつく。嘘というか、冗談というか。例えば皇太と三人で動物園に行ったら「動物園なんて十八年ぶりにきた」なんて言うし、僕が気づかずにスルーすると「ちゃんとツッコンでよ」と怒る。まったく、油断ならない。
「それで、話って何?」
紅茶を一口飲んでしばらく食レポごっこを楽しむと、優香はテーブルに肘をついてその上に顎を乗せ、僕の目を覗き込んだ。自分がかわいいことを知っていてやっているんだ、と最近ようやく気がついた。
「うん、皇太のことなんだけど」
僕がそう始めると、彼女はあからさまに顔を歪めた。それはごめん、と思いつつも僕は続ける。
「あいつのあのクセ、やめさせられない?」
「クセって、全部奢ること?」
「そう、なんか、気分悪いよ」
優香は「無理無理」と言って手を振った。
「あいつ中学の時から誰かが喉乾いたらポンと千円渡してたんだよ?今更治んないよ」
「金あるのはわかるけどさ、なんかね、やだ」
「ふーん」
ティーカップの縁を指でたどりながら、優香は紅茶の波紋を見つめていた。僕は彼女の瞳の中で波打つ黄金の波が見えるようで、なんとなく不安になった。何か間違ったことを言った時のように。
「何がふーん?」
「別にぃ」
しばらく僕は不安げに彼女を見つめていたが、そんな僕に気づいたのか、優香は不意に悪戯っぽく上目でこっちを見て笑った。
「なんですか」
「怒ったと思った?」
「別にぃ」
失礼します、と店員が声をかけて抹茶パフェを運んできた。優香は大げさに手を合わせて嬌声を上げる。そんな彼女を見てなんだか力が抜けてしまい、僕はため息をついて椅子に深くもたれかかった。
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