破綻

3/7
前へ
/44ページ
次へ
 バイトから戻ると部屋には明かりが点いていて、勝手に上がり込んだ皇太がポテトチップスとコーラを床に置いて寝そべったままゲームをしていた。僕はそんな姿に何故かとても安心して靴下を洗濯機に放り込んだ。 「よお」 「お帰りー」 「飯食った?」 「ああ。サンドイッチ残ってるけど食う?」 「いや、いい。それより昼のこと説明しろよ。ビビったじゃん」  あはは、と笑って皇太はゲームをセーブして立ち上がった。 「なあ、俺どう見える?」 「どうって何よ、漠然としてるな」 「最近、何か変わったか?」 「……髪切った?」  冗談でそう言うと、皇太は基地外のように大きな声で笑った。部屋着に着替えていた僕は驚いて振り返ると、彼はまだその顔に笑みを貼り付けたまま、じっとこっちを見ていた。僕はそんな皇太を見て、何故か寒気がした。何か、大事なものを見落としていたような、そんな恐怖を覚えた。 「なあ知ってる?覚醒剤ってさ、結構簡単に買えるんだぜ。一グラム三万五千円くらいだったかな。注射器五本付きでさ。それをライターの裏でこうやってすり潰してさ。注射器に入れて、ここに打つんだよ。覚醒剤打つとさ、血管が太くなるんだよな。ほら、見てみろよ。右腕と左腕で、ここの血管の太さ全然違うだろ?すげーんだぜ、覚醒剤打つとさ、全然眠くなんないんだ。それに、何も食いたくなくなる。何も必要なくなるんだよ。けど、なんかしてねえと落ち着かなくてさ。何でもできるんだけど、何をしても満たされる気がしなくなる。マリオカートとかでスター取って無敵状態になってても周りに誰もいなかったら虚しいだろ?あんな感じ。でも、何をしてもさ、求めるものは得られないんだ。だって俺、何が欲しいのかわかんないんだもん。何がしたいのか、自分がどうなりたいのか、どう生きればいいのかわかんないんだよ」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加