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「昔言ってたさ、僕が主人公の小説のラスト、僕ナイフで自殺するんでしょ」
「まあ、当たらずといえども遠からず、かな」
「ひっでえ。はやく読ませろよ」
「やだよまだ満足してないもん」
「どんなところが?」
「全体的に。てかどうせ死ぬならナイフよりも銃で死にたいや。最期には頭ん中に花火みたいな音が鳴り響いてて、その儚さの中に消えていく、みたいなさ」
「なるほど、ちょっとだけ小説家っぽいな」
「中也ってさ、優香のこと好きだろ」
「何だよ急に」
「いいから正直に言えよ。いつから?」
「うるせえ」
「何照れてんだ言えよ」
「……最初からだよ」
「何、一目惚れ?ピュアだねえ」
「うっせ。てか、皇太も好きだろ」
皇太は新しい煙草に火をつけながら当たり前のように「好きだよ」と笑った。
「……やっぱりね」
「それも、お前が出会う十年以上も前からな」
「言ったことないの?」
「ないね。あいつは、いいやつだよ。幸せになって欲しい」
「なんだよその言い方。どっか行くみたいじゃん。僕を置いてくなよ」
「俺がいなくなったら寂しい?」
「まあ、自慢じゃないけどほとんど唯一の友達だからね」
「悲しいやつ」
「うっせ。お前がいれば十分なんだよ」
「なにそれ愛の告白?寒気したわ」
「僕の胸で泣いてたやつがよく言うよ」
「うわ、ほんとそれ一生の不覚だわ。忘れろ」
「一生言い続けるから覚悟しとけ」
僕らは煙草が一箱なくなるまで、どうでもいい話をして笑いあっていた。これで何もかも元どおり、僕はそんな風に簡単に思い込んでいたのかもしれない。
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