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それから数日後、僕は皇太に誘われて花火大会へ行くことになった。男二人で花火大会ってどうなのかと少しひいたが、そんな思い出も後で笑えるかと承諾した。海上から打ち上げられる花火で、皇太は海辺の席を購入済みだった。何故か現地集合だと言うので、僕は素直に従ってえちぜん鉄道で揺られ三国港までぼんやり向かった。駅に近づくにつれ、浴衣姿のカップルや家族連れがどんどん増えてきた。こんな中で男二人海辺で花火を見るのはいかがなものかと居心地の悪さを感じ始めるが、もうどうにでもなれと思った。しかし指定された場所にいたのは皇太ではなく、優香だった。僕は心の中で「やられた」と呟いた。
「あれ、中也くん?」
「うん、そうみたい」
「皇太は?」
「僕も、皇太に呼ばれたんだけどね」
予約されていた席は二人用だった。僕らは顔を見合わせて、照れ笑いを交わし合った。
「あいつめー」
「謀られたねー。まあ、せっかくだし」
「そうだね。せっかくだし、楽しませてもらいますか!とりあえず何か食べる?あっちに屋台いっぱい出てたよ」
浴衣姿の優香はとても魅力的で、僕はその背中について行きながら胸が強く痛むのを感じた。優香もきっと、皇太のことが好きなのだろうと、僕は思っていた。それは、皇太のために着てきた浴衣だろう。しかし今、ここにいるのは僕で、どれだけ不自然でもそれは変えることができない。
それから僕らはまるでカップルのように屋台の食べ物を分け合って笑いあった。そして日が暮れ、二人で見た花火は、今まで見たどんな花火よりも美しく僕の心に刻まれた。それは、隣で目を輝かし、こっちへ微笑みかける彼女が、何よりも愛しかったから。
「大丈夫?」
「うん。それにしてもあっつい」
帰りの電車は花火帰りの人でディズニーランドのアトラクション以上の混み具合だった。僕は周りの人から優香が押しつぶされないようになんとか踏ん張っていたが、そろそろきつくなってきた。優香はそんな僕に気づいているのか何度も「ごめんね」といって心配してくれる。
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