それから

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それから

「ねえどうして?」  泣き続ける優香に、僕は何を言えばよかったのだろう。それに、彼女は何を問うたのだろうか。僕が大学を辞めてどこかへ消えようとすることか?それとも、皇太が死んだ理由だったのだろうか。彼女にも、わからなかったのかもしれない。 「みんな、何かから救われたいんだよ。僕もそうだし、皇太もそうだったのかもしれない。あいつは、自分を救ったんだ」 「そんなの、間違ってる。死ぬことが救いだなんて、そんなの嘘だ。死んだら何もかも終わりだもん。生きてるからこそ、何か見つけられるんじゃないの?」 「優香ちゃんは、幸せなんだよ」 「そんなことを言ってるんじゃない!わからないよ、皇太のことも、中也くんのことも。そんなの、ただ逃げてるだけだ」 「そうかもしれない。けど、生きててよかったって思うことがあるなら、死んだ方がよかったって思うこともあるんじゃない?」 「それは生きてるから思えることじゃん。そんなの、比べられないよ。ねえ、ならどうして中也くんは今泣いてるの?どうして?どうしてそんな風に諦められるの?わからないよ。私はどうすればよかったの?」  僕はどうすればよかったのだろう。僕らに、いったい何が変えられた?優香の手を離して、夜空の月に尋ねてみても、何も教えてはくれなかった。いつだって、何もかもがそこにあるはずなのに、僕らはそれを掴むことができない。残酷だから、現実なんだ。 「誰も、他人を救うことはできないよ。どれだけその人を知っているつもりになっても、その人の心の奥底にある箱に触れるのは、その人自身だけなんだ。何もかもを選択するのは自分自身だ。自分以外に、自分を救える人はいないんだよ」 「そんなことない!人は支え合うことができるって、私は信じてる。人は独りじゃない。だから今私はこんなに痛いんだよ。中也くんもそうでしょ?皇太は私や中也くんの中にちゃんといたんだもん。ねえ、行っちゃ駄目だよ。中也くんまで独りになろうとしなくていい」 「優香ちゃんはとっても素敵な人だと思う。僕は君が大好きだよ。だから、幸せでいて」 「こんなの間違ってる」 「うん。でも、それを選択することができるのも救いなんだよ、きっと」 「そんなことどうだっていい!おかしいよ」 「うん。君が正しいから、安心して」
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