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「いっただっきまーす!」
パフェの撮影会が終わると優香はロングスプーンを頂上から大胆に差し込んだ。しかしアイスは思いの外硬かったので跳ね返される。
「ちょっとそっち押さえてよ」
「どっち?」
パフェなんか普段食べることのない僕は攻略法が見えず苦戦した。優香は自分の好きな白玉を確保しておいて、苦手な小豆は「好きそうだからあげる」と言って僕の方へよこした。窓の外ではゆっくりと空が暮れていく。透明な黄金が雲を装飾し、まるで何かの存在を予感させようとしているように思えた。
「ゴールデンウィークどうするの?」
「んー、そろそろバイトでも始めようかな」
「帰んないんだ」
僕の実家は大学のある福井からまっすぐ日本を縦断した三重県にあった。北陸のイメージは日本海の荒波が厳しい寒い雪国といった感じだったが、体感ではさほど大差なかった。ただ天気が変わりやすく、空はいつもどんよりと曇っていた。優香や皇太はこっちが地元で友達も多く、駅前を歩けば必ず知り合いにぶつかるほどだった。
「帰ってもやることないし」
「あー、友達少なそうだもんね」
「まあね」
意味もなくにらみ合い、やがて理由もなく二人とも笑った。だから僕は勘違いしないようにしないといけないと自分を戒めた。優香はいつも周りの人を楽しくさせる才能を持っている。彼女の周りにはいつも笑顔が集まっていて、誰もが彼女を愛していた。僕が特別というわけではない。そんなことを思いながら、暮れた窓の外でよりくっきりとした大型ビジョンを眺めた。優香も首を曲げてそちらを見ていた。その時は地元のフクロウカフェのコマーシャルが流れていた。
「あれ、皇太んちがやってるんだよ」
「え、そうなの」
「うん、まあ趣味みたいなもんらしいけどね。あいつんちほんと凄くて、家にフクロウ三十匹もいるんだよ」
「ええ、どんな家だよ……」
「ほんと、迷子になるレベルのお屋敷だから。中学の時とか、トイレに行って戻ってこれなくなった子が泣いて電話してきたもん」
「柏木家神隠し事件?」
「ちゃんと私が見つけてあげましたとも」
えっへん、と胸を張る優香の薄いニットの膨らみから目をそらして僕はまた大型ビジョンを見た。フクロウを肩に乗せる皇太を想像してみる。それは意外なほどよく似合っていた。鋭く涼しげな目の、綺麗な顔をした皇太は、細身によく似合った喪服をきちんと着込んでいた。皇太の家はこの辺りの人がみんな世話になっている葬儀屋で、彼は入学式の日も喪服を着ていたらしい。喪服の肩に留まるフクロウは目を瞑り首を傾げていた。しかし皇太が別の方を向くと目を開き、何かを見抜こうとするように黄金色の目をこちらへ向け続けていた。それはもしかすると、彼の洞察力や知性の象徴であるのかもしれなかった。あの顔で冗談ばかり言って馬鹿騒ぎしながらも、彼はよく人間を見ているようなところがあるのだ。僕はそれが時には怖くなることがあった。
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