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「……僕は、ある女の子を強く愛していると思っていた。僕は彼女と、一度だけ寝たことがある。けれどその時でさえ、突然心が冷める瞬間があった。彼女が感じ、昇り詰めようとしている時、僕は突然、何をしているのだろうと思った。そして、彼女ももしかしたら、そう思っているんじゃないかと考えると、とても怖くなった。その瞬間に夢中になれないんだ。何かを演じている自分に、不意に気がついてしまう。僕はアイドルが好きで、皇太とよくライブに行った。ライブ中はみんなと同じようにペンライトを振って、大声でコールしたりして。五色の光の波の中で、その瞬間だけになれたような気がした。でも、やっぱりそんな自分を観察している僕がいた。その瞬間に夢中になっているような演技をしている自分を、僕は冷めた目で見ていた。何の意味があるのだろうって。意味のあることなんて、どこにもありはしないのに。その瞬間を楽しめばいいのに、これは何なのだろうって、そんなことしてどうなるんだろうって、いつもいつも、一瞬のうちに全てを無価値にしてしまう目が、僕の中にあった。何かが終わった後も、その瞬間に浸っている演技を続ける僕は、とても醜い存在だと思った。濡れたような目で僕を見つめ微笑んだ彼女。ライブの後、興奮しながら語り合うオタク友達。みんな今に夢中で、その瞬間を強く感じ生きる能力があった。けれど僕は、自分の演技をよく知っていた。そして、もしかするとみんなそんな演技をしているんじゃないかと思うと、とても恐ろしくなるんだ。何もかもが紛い物で、みんな僕を見て笑っているんじゃないかって思ってしまう」
「君は、永遠が欲しいのかい」
「そうかもしれない。おとぎ話に出てくるような、真実の愛なんてありえないと考えながら、それに憧れているのかもしれない。というよりも、信じたいと、思っているのかな。でも、永遠に変わらないものなんて、何の魅力もないじゃないか。それなのに、どうしてそんなものを求めるのだろう」
「不安だから。独りが怖いから。寂しいから。君は小さな子供のままなんだ」
「みんなどうして、信じられるんだろう。どうして生きていけるんだろう」
「君も、生きているじゃないか」
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