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「ねえ、聞いてる?」
「あ、ごめん、なんだっけ」
もう、と言って優香は可愛らしく唇を尖らせて腕を組んだ。そんな彼女を見て僕はまた笑ってしまう。彼女の動作ひとつひとつが僕を楽しい気持ちにさせる。日が暮れ、もうすぐカフェの閉店時間なのが寂しかった。
「バイトなら皇太に紹介してもらえば?バーテンとか、知り合いの時給いいとこ教えてくれるよ」
「えー、なんか腹たつじゃん。自分で見つけるよ」
「徹底してるねえ、なんでよ、あんなに仲いいのに」
「学生のうちはね、せめて対等でいたいわけ」
「中也くんも社長になればいいじゃん、起業でもしてさ」
「そしたら」結婚してくれる?なんて自分が冗談でも言おうとしていて、驚いて口をつぐむ。彼女といると、なぜか僕の口まで軽くなる。じっと見つめられていた目をそらし、僕はまた大型ビジョンを見た。フクロウカフェのコマーシャルは終わっていて、代わりにデパートの催事コーナーで来週開かれるうまいもんフェアなるものが宣伝されていた。
「そしたら?」
「雇ってやるよ」
「えー、私はそんなに安い女じゃないよ?」
「焼肉おごるって言ったら?」
「雇ってください!」
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