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そんな時間を耐え、夕食の時間になり、新入生全員が入る大きな和室の広間で食事会となった。食べ物は大して美味しくなかったが、誰もが嬉しそうな歓声をあげて目の前の御前を見ていた。まるでお芝居を見ているような気分だ。自分だけが筋書きを知らないままこの舞台に迷い込んでしまったのかもしれない。それでも僕は好き嫌いがないので残さず食べた。他の人はどんなことを感じているのだろう。本当に目の前のそれを、今を、楽しいと思っているのだろうか。それとも、やはり今が肝心だと、周りの人との繋がりを優先し、わざわざ大げさで親しみやすい自分を演じているのだろうか。そんなことを考えながら周りを見回していると、ある男と目があった。それが柏木皇太だと、その後の自己紹介で知った。
自己紹介。それは僕にとって拷問に近かった。大きな部屋で、マイクが回され、一人ずつ話をする。すでに知り合いのいる彼らは囃し立てあいながら楽しそうに話していたが、誰も知り合いのいない僕の方を向く生徒はほとんどいなかった。その中で、誰に向けられたわけでもない僕の声が大部屋に流れる。彼らはみんな、僕の心の疎外を感じ取ることができるように反応を示さず、僕は背中に大量の汗を感じながら隣にマイクを回して座った。それから、また一座は元の空気を取り戻す。僕は深い息を吐いて、もう空になっているグラスを口に持っていき、少し溶けた氷水に唇をつけて顔を隠した。どうしてこんな風にしかできないのだろう。僕は一体何を間違えたのだろう。どうすればよかった?
グラスを置くと、また彼と目があった。柏木皇太。彼は先ほど歓声を受けんばかりの人気っぷりを見せていた。すらりと背の高い、綺麗な顔をした男だった。ほんのわずかの間に笑いも取り、数少ない学科の女子の黄色い声援にも応えていた。そんな彼がどうして僕なんかを見ているのだろう?何か気に障ることでもあったのだろうか。はやく独りになりたかった。いや、精神的にはいつも独りだが、空間的に独りになりたかった。
食事が終わると、スケジュール通り、学籍番号で組み分けされた班で明日の発表に向けた議論が始まった。議題は「班員でできることでベンチャーを起業するならどのようなことをするか」という自由なものだった。僕の班は全員男子で、僕以外全員メガネをかけていた。そのせいか、僕以外はみんなもう仲が良さそうに見えた。だから僕は黙って彼らの議論を聞いていることにした。
さて、これが実につまらないものだった。彼らが考え出したのは、やはり自分たちの学科に合った話にしようとしたのか、仮想現実を使った何かという方向性に決まりだしていた。知能システム工学科はざっくり言うと、ロボットを作る学科だった。だから研究内容は機械工学や制御工学、回路理論といったハードに関するものから人工知能の設計などのソフト面まで渡り、脳に関する生物的な研究室もあった。しかしだからと言って、まだ何もできない彼らが突然仮想現実を作り出しそれを商業化しようと言うのだ。彼らは一体何者なのだろう?どこにそんな能力と財力があるというのだろうか。そこで僕はようやく「それでいいのかな」と声をあげてみた。
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