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「どういうこと?」
複数のメガネが僕をみて、そのうちの一人がメガネを押し上げながらそう言った。僕は曖昧に笑いながら続けた。
「うん、なんかちょっとズレてない?ここにいる人たちでできるベンチャーでしょ?それが仮想現実を使った、何、ゲームとか、医療とか?ってなんかちょっと変じゃないかな」
「ベンチャーってそういう新しいことやることでしょ」
他のメガネがそう言ってみんながうなずくので、僕はなるほどと思った。もうあまり口を開かない方がいいのだろう。それに、彼らの意見を否定しても僕にこれといってアイデアがあるわけではなかったので、わざわざ邪魔をする理由もなかった。結局僕らの班の発表は、仮想現実を使ったリハビリテーションを行うといった話になり、それはおそらく彼らが先ほど部屋の中で盛り上がっていたアニメの影響なのだろうというのは容易に想像がついた。どうやら今彼らの間では、仮想現実に囚われになった主人公たちがデスゲームをクリアするといったアニメが大流行しているらしい。友達の少ない僕はどうしてそんなありきたりな設定のものが今更もてはやされているのかさっぱりわからなかったが、暇だったので見てみたら思っていたよりも面白かった。彼らの言う「新しいこと」というのが何なのかは結局わからなかったが。
発表の方向性がうんざりする形で決まった頃に風呂の時間になった。僕はその頃にはどうにも恥ずかしくなって机に突っ伏して寝たフリをしていたのだが、僕の班の人は誰も起こしてくれなかったので周りが十分に静かになったら顔をあげようと思っていた。すると驚くことに僕の肩を叩く人がいた。煩わしげな芝居をしながら顔を上げると、そこにはニヤニヤ笑う皇太が居た。
「もうみんな風呂いったけど、中也は行かないの?」
「ああ、ありがとう」
どうして彼が僕の名前なんて覚えているのだろう、と思ったが机の上にそれぞれのネームプレートが置いてあることを思い出した。それにしてもいきなり呼び捨てか。いつもならその遠慮のなさに少し怯えるが、彼には不思議とあまりそういうことは感じなかった。皇太はわざわざ眠たげに目をこすったりしてみせる僕をまだニヤニヤと見続けていた。
「……なに?」
「あのさ」
彼は僕の隣の椅子を引き寄せて座ると、端正な顔をドキっとするほど近づけて「中也はなんでこんなところにいるの」と言った。
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