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駅前のバス停
冷たい手に息を吹きかける。夜行バスを待つために集まった人たちの声がモザイクのように感じられ、知らない異国にいるような気分になった。
見上げると名古屋駅のツインタワー。エレベーターが光りながら上下しているのをぼんやり眺める。
明滅する赤い光は何を表しているのだろう。
この世界には、僕には読み取れないサインがそこら中にあって、そういうものを感じると、いったいどうやって生きていけばいいのか、自分がどこから来て、どこへ向かおうとしているのかわからなくなってしまう。
不安が胸に滲み寄るのを感じ、コートの胸元を握った。呼吸を深くゆっくりとしなければならない。
けれど僕の肺は急に酸素を掴むのが下手くそになったように喘ぎ始めた。心臓の音が周りに聞こえるのではないかと不安になった。
しかしこの世界で僕に注意を払う人間なんてどこにもいない。モザイクの間を割って、芸人の大げさな声が耳に届いた。
振り返ると、ビルの大型ビジョンで何かのコマーシャルが流れていた。その内容は全く頭に入ってこなかったが、大型ビジョンはある記憶を蘇らせた。
それは大学に入学した年の四月のこと。
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