二人の過去

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二人の過去

 夏休み前、沙良は杏莉の部屋に招かれた。  暑さも日ごとに増し、夏休み間近ということもあって、周りが浮足立っている中、沙良はいつも以上に元気のない日が続いていた。杏莉がそれを見兼ねて誘ってくれたのだと、沙良にも分かっていた。  杏莉の部屋は、とてもシンプルだった。必要な家具は揃っているが、本当にそれだけという感じだった。  杏莉は、無理に沙良から話を聞き出そうとはせず、自分の話を始めた。もっとも普段から、口下手な沙良は聞き役に回ることが多かったのだが。 「私さ、親がいないんだ」  衝撃的な発言を杏莉はいつもと変わらない調子で口にした。  沙良は、思わず聞き返した。 「え? どういうこと?」 「育児放棄ってやつ? たぶん、どっかで生きてはいるんだろうけど、どこにいるのかも知らない」  杏莉が淡々と話す内容に沙良の心がざわめきだす。 「小学校までは一緒に暮らしてたらしいけど、ほとんど記憶に無いんだよね。気づいたら、親戚の家にいた。でも、そこでは邪魔者扱い。金は出すから、さっさと出ていけって面と向かって言われちゃった。まあ、お金出してもらえるだけ、感謝しないとね。大学行けたし、沙良とも会えたし」  そう言って杏莉は沙良にいつもの笑顔を向けた。普段の明るい杏莉からは想像もつかないような境遇だった。 「ごめんね、急にこんな話しちゃって。でも、沙良には言っておきたかったっていうか、聞いてほしかったんだよね」
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