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「逃げよう、二人で」
沙良は、思わずそう口にした。
「私も、いつあの父親が押しかけてくるかわからないし。……一人で死のうとしないでよ。どうしようも無くなったら、二人で死のう」
「沙良?」
「でもさ、二人で死ぬくらいなら、その前に二人だけで生きてみようよ」
大学に入るまでずっと後ろ向きに生きてきた沙良が、こんな風に考えられるようになったのは、杏莉に出会えたからだ。
「大学なんてやめたって構わない。杏莉は、私をナンパ男から助けてくれた。だから、今度は私が杏莉を助ける」
「……強くなったね。沙良は」
「全部、杏莉がくれたんだよ」
杏莉はいつもの笑顔を取り戻し、立ち上がる。
「そうだね。逃げようか。親たちの手の届かないところに。遠くへ、二人で」
暗かった空がいつの間にか白み始めていた。
沙良も立ち上がる。
「うん、二人で」
きっと大丈夫。一人では押しつぶされそうな現実でも、二人なら。
沙良と杏莉は、朝日に輝く水平線をいつまでも見つめていた。
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