終章

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終章

【黒龍の夢別邸、金龍レイから現代へ強制的に帰還させられる】 『やあ、ツバサ。おはよう!』  ユイと一緒のベッドで寝ていた俺は、龍の言葉を聞いて目を覚ました。目の前に、金色に輝く小さな龍が浮かんでいる。 『あー、レイじゃないか。おはよう。もう戻ってきたの?』 『ツバサ~、ユイと一緒に寝ているなんて、上手いことやったね。おめでとう!』  俺は隣のユイを見て、急に恥ずかしくなった。 『い、いやね。こ、これはね。そ、その……』 『まぁ、いいじゃない。ユイには、もう少し寝ていてもらうよ。だいぶ、疲れているみたいだからね。よっと』  レイからユイに金色の魔法が飛んだ。ユイの寝顔がニッコリと笑ったようになった。  ああ、カワイイなぁ! 『で、どうしたの? 一週間くらい、俺がいた時代に戻るって言ってなかったっけ?』 『うん。ハヤトの検査は、すぐに終わったんだ。何も問題なかったよ。タカコがね、ハヤトに変な線を鼻から入れて、身体の中を見るんだよ。凄いことやるよね~。びっくりしたよ』 『ああ、胃カメラだね。ハヤトさん、問題なくて良かったじゃない!』 『うん。せっかくだから、向こうの時代で少しゆっくりしようと思ったんだけどね』 『ん? 何かあったの?』 『昨日から突然、時空が揺らぎ始めているんだ。最初にハヤトを向こうの時代に連れて行った時、その半年後くらいの状況よりも逼迫している』 『その話、何か聞いたことがあるな。だから、俺がこの時代に連れてこられたんじゃなかったっけ?』 『そうなんだ。あの時は、ツバサをこの時代に連れて来たら、すぐに時空が安定したんだ。だから、人一人を時空を超えて動かしたら、逆に一人を動かせば問題ないと思っていたんだけど……』 『実は違ったの?』 『うーん……あんまり、よく分からないんだ。時空を超える魔法については、まだ謎が多くてね』 『じゃ、どうするの?』 『このままじゃ、マズイんだ。ツバサには、すぐに元の時代に戻ってもらいたい』 『えっ、す、すぐに?』 『うん、申し訳ないんだけどね。ハヤトは昨日の夜、この時代のコルフ村に戻ってもらった。それでも、時空の揺らぎが止まらないんだ。だから、急いでツバサを呼びに来たんだ』 『俺が戻らないと、「時空の揺らぎ」ってのが止まらないの?』 『たぶんね。ツバサが戻れば、時空を揺らす要素はなくなるから、しばらく時間が経過すれば、間違いなく時空の揺らぎは止まるはずなんだよ』 『わかった。じゃ、俺は元の時代に戻るよ。でもね、レイ。この状況、わかるでしょ?』  俺はユイを手のひらで示した。 『この状況って、ツバサとユイの事?』 『うん。ユイの両親……ハヤトさんとユリナさんに、挨拶に会いに行きたいんだけど』 『ダメだね。残念だけど、時間がないんだ。このまま、時空の揺らぎを放置して、もっと揺れが大きくなれば……』 『大きくなれば?』 『この時代が崩壊するね。影響がどれくらい大きいか、想像もできない。下手をすれば、この世界そのものが。もちろん僕の存在も消えてしまう』 『崩壊……う、嘘だろ!』  俺が元の時代に戻るか戻らないかで、そこまで大きな事になるなんて! 『申し訳ないけど、急いで欲しいんだ。僕も急いでここまで来たんだよ。早く!』 『せめて、ユイとスノウに挨拶させてよ!』 『ダメ。この状況を見る限り、ユイを起こして説明したら、泣いてツバサを全力で引き留めるに決まっている』 『そ、そんな……』 『スノウにも、申し訳ないけど寝てもらっているんだ。早くここに来た時の格好に着替えて!』 『クッ……俺も戻りたくないけど……仕方ない。わかったよ』  俺は寝ているユイのホッペにキスして、ベッドから出た。スノウが寝ている部屋に行って、寝ているモフモフをたくさんモフモフした。  その後、こっちに来た時の服をしまってある部屋に行って着替えた。黄曜石のネックレスと最上級冒険者の指輪は付けたままだ。戻ったら忘れてしまうだろうけど、記念に持って帰ろう。 『ツバサ、準備できた?』 『ああ、できたよ』 『じゃ、外に出て!』  俺とレイは、黒龍の夢別邸の広い中庭に出た。 『あのさ、レイ。また、呼んでくれるよね?』 『わからない。とにかく、時空の揺らぎを止める事が先決だから』 『じゃ、もう、この時代に来られないの? そんなの嫌だよ!』 『ワガママ言わないの! この時代を作ったのは、間違いなくツバサが僕を生み出したからなんだからね! ツバサが責任を取るのは当然でしょ?』 『ユイに会えなくなるのは、嫌だよ!』  自然と涙が出てきた。 『もう、仕方ないなぁ。時空の揺らぎを抑える方法を見つけたら、ちゃんとまた呼ぶからさ』 『うう……わ、わかったよ。グス』 『ツバサは意外と子供なんだよなぁ。じゃ、もう少し右に動いて。そこで、じっとして。エイッ!』  俺は元の時代に戻った。 ◇◇◇◇◇  あ、あれ?  ここは、どこだ?  なんで泣いているんだ?  えっと……俺は確か、西武百貨店の本屋にいて、近くのトイレに入ったよな?  んで、ここは……小高い山の上? でも、地面は舗装されているな。  なんで、こんな所にいるんだ?  あれは……ジェットコースター?  あれは……高い塔かな?  あれは……観覧車だよな。  ということは、ここは……西武遊園地だ! 子供の頃に来て以来。久しぶりだな……って何で俺は、こんな所にいるんだよ!!  まただ。  富士山で記憶をなくして以来、久しぶりの記憶喪失。今は何月何日なんだ? 時刻は朝だな。遊園地には、誰もいないみたいだ。  今回は俺が知っている場所で記憶が戻ったみたいだな。良かった。  とりあえず、実家に戻ろう!
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