序章

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【富士山の麓の森からの脱出を試みる】  森からの脱出方法について考えた。富士山を背にして歩けば森から脱出できるんじゃないかと。富士山の位置を確認しながら、何度も何度も振り返りながら歩いた。  それにしても不思議だ。さっきまで、あの少し遠くに見える富士山の中腹にいたはずなのに、今は麓の森の中なんて。ひょっとして、転落した時に気絶して、その間に誰かが運んだのかな?  ……って、そんなわけないか。こんな深い森の中に人がいるわけがないし、さすがに人がいたら助けてくれるだろう。やっぱ、富士山は霊峰だとかパワースポットだとか言われているし、何らかの不思議な現象が発生した可能性は否定できない。  うーん……ファンタジー小説の読みすぎかな? でも、本当にここが青木ケ原樹海だったらどうしよう? 樹海の噂は俺でも知ってる。一度入ったら出られないとか、コンパスが使えないとか、自殺者が迷った挙句に最後に行き着く場所だとか……。俺も死ぬんだろうか? 「落ち着け!」  大きな声で叫んでみた。少し落ち着いた。登山のために背負っていたリュックは転落の際になくしてしまったようだ。服と靴は汚れているけど問題ない。だけど、飲み水も食料もない。この状況が長く続いたら、ヤバい事態だ。遭難したら、まずは水を探さないと!  大きな樹々。微かな風に揺れる葉の音。腰の高さまで伸びたシダの群れ。辺りを冷静に見回して、耳をそばだててみた。すると……水の流れる音が微かに聞こえる! 俺は力を振り絞って歩き始めた。相変わらず体が痛いけど頑張るしかない。 「あった!」  嬉しくて思わず声が出てしまう。川というよりも小さな沢だ。湧き水だろう。これで最低限の水を確保できた。ほんの少しだけ手ですくって口に含んだ。……うん、大丈夫そうだな。さすが富士山の湧き水。冷たくて気持ちいい!  あとは、転落によってドロだらけになってしまった顔と手を洗った。これで少しスッキリした。小さな擦り傷が少ししみるけど、大きな怪我はない。 「あんな高い所から落ちたのに、ほとんど怪我がないなんて……奇跡だな」  ホッとして声が漏れた。足を踏み外して転落した時に、チラッと下を見たら、以前に体験したバンジージャンプかと思うくらいの高さだったはずだ。あれは助かるような高さじゃなかったような気がする。ホント、いったいどうなってるんだろう?  もう少し休憩しようかなと思った、その時だった。  ドォーーーン!!!  突然、巨大な爆発音がした!  地面を揺るがすほどの大きな爆発音だ! 同時に、微かに爆発によると思われる風圧も感じた。これは近い! 確か富士山の麓には自衛隊の演習場があったはず。戦車の砲弾かミサイルか分からないけど、演習で何らかの爆発物が森に撃ち込まれたんだろうか? 「このままじゃ危険だ!」  思わず口から言葉が漏れた。ハッと我に返って辺りを見回す。無闇に動くことは危険だろう。だいいち、何処へ行けばいいか分からない。とりあえず近くにあった岩陰でジッとすることに決めた。  ……しかし、爆発音は続かなかった。そして、遠くから人声が聞こえてきた。 「これは……自衛隊の人達だろうか?」  つぶやきながら考えた。爆発にはビビったけど、迷子状態の俺にとっては助かったのかも。事情を話して保護してもらおう!  爆発音と人声が聞こえてきた方向に慎重に歩き出した。まだ爆発がある可能性もあるし、自衛隊員なら武器を持っているはずだから、撃たれる可能性だってある。ゆっくりと。慎重に。  すると、また人声が聞こえてきた。かなり近い。 「あれ? 日本語じゃないみたいだな……」  自衛隊と共同演習してる米国兵なのかな? 大きな木の陰に隠れながら聞き耳を立てた。 「あれ? 英語でも……ない?」  一応、英検2級は持っているから簡単な英語なら分かるんだけどな。声は聞こえる。ゆっくりとした感じの話し声だ。けど、何を話しているかは全く分からない。何語なんだろう? 「一体、誰なんだ?」  そっとつぶきながら人声がする方向をゆっくり覗いてみると、そこには少し開けている広場のような場所があった。
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