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【ユイと緑龍と、初めて会話してみた】
キョロキョロしていると、俺に向かって少女が叫んだ。
「pgjmwjati@ntj@g!」
何か言ってる。でも、よく分からない。首を傾けて悩んだ顔をしてみた。すると、少女はもう一度叫んだ。
「オイ、お前、来い!」
なぁんだ。この子、片言だけど日本語を喋れるじゃないか。外人っぽいけど、ハーフなのかな? とりあえず撮影が一段落したから、侵入者である俺に声をかけてくれたんだろう。俳優さんたちだけじゃなく、監督さんたちやスタッフの人たちにも謝まらなきゃな。
まだ体が痛いから、ゆっくりと少女に近づいて行った。俺が近づくと、少女が再び話した。
「ptanwtkdmjwodagqvt?」
全く理解できない。ゆったりとした話し方だ。英語ともフランス語ともスペイン語とも違うような気がする。どっちも詳しくないけど。分からないので、肩をすくめて首を左右に振った。ボディランゲージで伝えるしかない。
すると、少女は再び片言の日本語を話してくれた。
「オイ、お前、誰だ?」
よかった。ホッと一息。
「名前は竜崎翼です。撮影の邪魔して申し訳ありません」
頭を下げて謝った。話が通じるようにゆっくりと丁寧に話した。
なぜか恐竜ロボットも俺を見つめている。近くで恐竜ロボットを見ると、さらによくできているのが分かる。機械の動作音が聞こえない代わりに、息づかいが聞こえる。呼吸に合わせて、体がゆっくりと動いている。鼻からは息が漏れている。凄い技術だ。確か、アニマトロニクスって言ったっけな。ハリウッドの特殊技術に違いない。
「監督さんはどこですか? 謝りたいんですけど」
すると、少女と恐竜ロボットがゆっくりと見つめ合った。そして、少女は俺に向き直って言った。
「監督? 撮影? 知らない」
ハァ? 何言ってんの? と思った次の瞬間、驚きの質問が続いた。
「お前、龍使いか?」
この女の子は何を言っているんだろう? 龍使い? まだ撮影が続いているんだろうか?
「いいえ」
とりあえず否定。だって俺、学生だもの。
「なぜ、お前、龍の言葉、使う?」
相変わらず片言の日本語だ。175センチの俺よりも少し背は低い。顔は間違いなく欧米人系で、のっぺり顔の日本人ではない。ポニーテールの黒髪。日焼けした肌。高い鼻。クリッとした二重の大きな目。うん、美人だなぁ。
「おい、聞け!」
しまった。つい見とれてしまった。恥ずかしー。えっと……返事だ、返事。
「龍の言葉? ……ではなく、日本語です。私は日本人です」
少女に理解できるように、できる限りゆっくりと丁寧に答えた。
それにしても、龍の言葉って……ファンタジーっぽい響きだなぁ。まだ役になりきっているのかな?
すると、恐竜ロボットが、また立ち上がるような動きをした。頭と首が上に動いた。同時に少女は恐竜ロボットの方を振り返り叫んだ。
「リョク! atpjwtpg’pjwdjpg@t…」
最初の言葉以外はチンプンカンプンだ。まったく分からない。少女の動作から推測すると、怪我をしてるんだから動かないで! ……というように感じた。
恐竜ロボットは、頭と首と一緒に両前足も、地面から高さ50センチぐらいまで離れて浮き上がった。そして、そのまま恐竜ロボットは、地面と平行に広場の方向へゆっくりと動いた。体の後ろの部分が森の中から出てくる。少女も俺も、邪魔にならないように少し横に移動した。少女はオロオロしながら恐竜ロボットを見ている。
どんな機械を使ってロボットを操作しているんだろう? ハリウッドの特撮技術をこの目で見られるなんて凄い経験だ。これは、ラッキー!
少しずつ胴体の部分が森の中から出てきた。
……あれ?
胴体には羽が生えている。恐竜じゃなくて、ドラゴンなんだ。透き通った緑色の羽が広がって、ゆっくり動いている。綺麗だな。
……あれれ?
後ろ足まで出てきた。浮いている。前足と同じく長い爪が生えている。
……あれれれ!?
尻尾が出てきた。棘が生えていて、尻尾も空中に浮いている!
き、機械なんて……ど、どこにもない!! ど、どおなってんの、これ?
そのまま広場の中央まで浮きながら移動して、4本の足でゆっくりと着地した。左の前足からは血が滴っている。
「な……ん……だ、こ、これ……は?」
なんとか口から言葉を絞り出した。情けない話だけど、俺は腰が抜けて、へたり込んでしまった。
これはドラゴン!!
本物みたいっていうか、これ本物だろ! 龍使いって言っていたから、ドラゴンじゃなくて龍って言うのか? ……どっちでもいいか、そんなこと。
これ、本物の龍なのか?
龍って浮くのか?
血は緑じゃないのか?
頭の中が大混乱している。
改めて龍を見た。とても大きい。体長10メートルはあるだろう。全身緑色。鱗が太陽の光を反射して、キラキラしている。美しい! カッコイイ!
「……ああ、分かった。これは夢だな」
納得しながらつぶやいた。俺はファンタジー映画や小説が大好きだけど、中でもドラゴンが一番好きだ。恥ずかしいから誰にも言ったことないけどね。昔からファンタジー小説を読んだり、ファンタジー映画を見た日の夜に、よく龍と一緒に空を飛ぶ夢を見たっけ。確かこんなスタイルだったなぁ。ただし、こんなリアルな夢は初めてだ。
地面に降り立った龍は、長い首を曲げて俺に向き直った。瞬きしてから大きな口を開いた。
グォ、グワ、ウォン、グォー。
「おい、竜崎翼と言ったな。助かったよ。ありがとう」
鳴き声の中に「日本語」が聞こえた。
少女は緑色の龍に駆け寄った。怪我をしている左前足に向かって両手を広げて、また龍に何か話しかけている。
俺はへたり込んだまま動けない。たとえ夢の中でも、龍が日本語を話すなんて信じられない! しかも、滑らかな日本語が鳴き声の中に日本語が混ざってるなんて。一体どうなってるんだろ?
「まあ、夢だからなんでもアリか……」
そうつぶやいて、すぐに思い直した。
いいや、ちょっと待て。富士山から滑落した時から、ずーっと体が痛かったよな? さっきの爆発で飛んできた小石も体に当たった時は痛かったぞ? これって、まさかの現実? オタク小説の王道、異世界ってヤツか?
俺が自問自答していると、少女の両手が光った。龍の怪我に向けて両手を差し出している。
龍がいるんだから魔法だってあるよねー……って、魔法もあるのか? あれは本当に魔法なのか? 心の中に様々な疑問が渦巻いている。
とりあえず、こんな時は定番だけどやる事は一つしかない!
思いっきり、自分の頬っぺたをつねった!
「いデデデ!」
痛かった。もの凄く。つまり……これは現実なのか!? 富士山から滑落した時に、俺は異世界に転移したんだ。もう、それ以外に考えられない。
やっと正気に戻った。
すると、今度は少女がへたり込んだ。俺は驚いて立ち上がって、少女の近くへ走った。
「おい、大丈夫か?」
少女に向かって叫んだけど返事はない。かなり疲れているようだ。肩で息をしている。
すると、代わりに返事をしたのは龍だった。
ガウ、グォ、グー、グォン。
「魔力が少ないのに、無理しちゃって」
「魔力?」
やっぱり、さっき彼女は魔法を使ったのか?
ガウ、グォグォ、ガゥン、グォン。
「大丈夫だと思うよ。魔力切れだから、休めば回復するはずだから」
やっぱり、龍の鳴き声の中に日本語がはっきり聞こえる。
「魔力切れって?」
グォー、グォン、ガウ、グゥー。
「身体の中の魔力が少なくなって疲れちゃったんだ。ユイが僕の怪我が早く治るように、治癒魔法を使ってくれたんだ」
彼女の名前はユイっていうのか。それに治癒魔法か。龍を治療しても自分が倒れちゃったら仕方ないな。龍が大丈夫だと言っても、龍の足元でへたり込んだままでは心配だ。
「ユイ、立てる?」
声は聞こえているはずだし、簡単な問いかけだから俺の言葉も理解できるはずだ。それでも、返事はない。かなり苦しそうだ。仕方ないので、龍に向かって話した。
「木陰まで運ぼうか?」
龍の大きな爬虫類顔をしっかりと正面から見た。鼻の穴は小さい。閉じている時の口からだと、牙は見えない。頭の上には短めの角が2本生えていて、顔には体の部分より小さな緑色の鱗が並んでいる。話が通じるので、意外に怖さは感じなかった。むしろ龍が大好きな俺には、カワイく見える! 龍とこんなに近くで話せるなんて正に夢のようだ。
ガゥン、グワ、ガウ、ガウ。
「ああ、そうだね。あの木陰まで運んでくれないかな?」
「分かった!」
そう言って、ユイの背中に触れて動かそうとしたら、腕で振り払われた。やましい事なんて考えてないのに。ちょっと残念だけど。
ユイは、ゼイゼイと苦しそうに息しながら、なんとか立ち上がった。
「お前、龍と、会話、できる……」
だって、日本語だもの。
「私、名前、言って、ない、お前、名前、呼んだ」
あれ? そうだっけ?
「お前、なんだ?」
……この質問に対して、俺はどう答えればいいんだ?
「あー、えっと、名前は竜崎翼。ツバサって呼んで。さっきも言ったけど」
「ツバサ? 名前? …………あ、ありがとう」
あれ? なんか感謝されるような事したっけ? そう言えば龍も俺にありがとうって言っていたな。
「私、コルフ村、龍使い、ユイ」
コルフ村に住んでいる、龍使いのユイ……という意味だよな。とりあえず挨拶だな。
「ユイ、よろしく」
「ツバサ、よろしく」
おお、名前と挨拶が通じた!
片言の日本語だと意思の疎通は難しい。できる限り丁寧で簡単な言葉を選ばなきゃ。
「これから、どうする?」
俺の問いかけに対して答えたのは龍の方だった。
ガゥン、ガウ、グゥー、グォン。
「村へ帰る。お前も一緒に来てくれない?」
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