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【緑龍リョクとユイと一緒に、村まで歩きながら話す】
龍と一緒に歩いた。この世界のことが全く分からないので、村へ行くことに同意した。
ユイは疲れきったらしく、龍の首元に乗せてもらって揺られている。心配だけど、少しうらやましい。俺も龍に乗ってみたいな。
先程の広場から道が伸びていた。舗装されてはいないけど、踏み固められているので歩きやすい。手入れされている感じがあるので、よく利用されている道なんだろう。
ユイは龍の首元でグッタリしている。龍はユイを落とさないようにゆっくりと歩いているけど、心配だから俺も龍の首元の横辺りで歩いた。
「ユイは大丈夫なの?」
ガゥン、ゴウ、グオ、グォン。(以下、鳴き声は略)
「うん、大丈夫だと思う。単なる魔力切れだから一晩寝れば回復するよ」
「それなら少し安心だね」
普通に龍と会話できた事にも安心した。鳴き声はガウガウと怖そうだけど、聞こえてくる話し方は優しく感じた。
「僕の名前はリョク。ユイが名付けてくれたんだ。よろしく」
「ああ、よろしく! リョク! 俺は竜崎翼、ツバサって呼んでね。本当に会えて嬉しいよ!」
この龍の名前はリョクっていうんだ。緑色だからかな。いい名前だと思う。
「龍の言葉を使えるなんて驚いたよ。どこから来たの?」
「龍の言葉って、よくわからないんだけど。どこからって言われると、日本だね。日本の埼玉県。って言っても、たぶん分からないよね。富士山から転落して、気がついたらここにいたんだ」
「ふーん。記憶喪失かい? でもフジという名前の山なら知ってる。あれが霊峰フジだよ」
リョクは首を動かして、森の木々の隙間から見える大きな山の方を見た。
あの山もフジって言うんだ。名前つながりで異世界に飛ばされてきたのかな? 俺はもう元の世界には帰れないのかな? サークルの仲間たちや俺の両親は大騒ぎだろうな。
色々考えていると、リョクが俺の方を向いて歩きながら頭を下げた。
「さっきはありがとう。助かったよ」
「そう? 言われる理由が分からないけど?」
「だって、天空教の奴らを追っ払ってくれたじゃないか」
さっきの忍者みたいな戦闘員たちのことだな。追っ払ったという認識は全くないけど。
「えー? 何もしてないけど? 変な赤い光が飛んできて、爆発して、文句を言ったら逃げて行ったんだ」
「あの攻撃を避けるなんて驚いたよ! 奴らも同じだと思うね」
そんなに凄い攻撃だったかなぁ……っていうか、やっぱりあれは俺に対する攻撃だったんだ! だから俺を通り抜けた後に爆発したのか!
「ホント大した事ないよ。爆発には驚いたけど。アイツら宗教団体なのか。変な奴らだね」
「僕とユイの散歩道に魔法爆弾を仕掛けやがったんだ。あれはかなり痛かった! こんな所まで奴らが来るなんて思ってなかったな」
あの最初の大きな爆発音は自衛隊のミサイルではなく、天空教の戦闘員が仕掛けた爆弾だったんだ。魔法を使った爆弾ってことだな。
「よく足の怪我だけで済んだね」
「僕は頑丈だから。もしユイが罠にかかっていたらと思うとゾッとするよ。それにツバサが現れなかったら奴らに殺られていたかもね」
「そんな物騒な奴らなの? なんか怖いな」
ここは、宗教団体と龍が争いをしている世界なのかな? 争いは嫌いだなぁ。
「リョクの足はどうなの?」
「ああ、ユイの魔力のおかげで、もう大丈夫だよ」
「それは良かった!」
リョクの足元を見ると、もう傷口は塞がって血は止まっている。
「魔法って凄いな」
思わずつぶやいた。
でも、ユイの治癒魔法の力だけじゃないかもな。リョクの身体は硬そうな鱗で覆われているし、足先の爪も固そうだから、魔法爆弾を受けても傷が浅くすんだのかもしれない。
これまでの話をまとめると、リョクとユイが散歩してる時に天空教の戦闘員が仕掛けた魔法爆弾の罠にかかって、そこに偶然にも転移した俺が通りかかった……という事かな。
これって本当に偶然なんだろうか?
天空教ってなんだ?
魔法爆弾って?
魔力って?
相変わらず、疑問だらけだな。しばらく黙って考えて歩いた。すると、リョクが話し始めた。
「アイツら僕たちが嫌いなんだってさ。ま、あんな奴らに簡単には負けないけどね」
「エッ? 『たち』って事は、リョク以外にも龍がいるの?」
「もちろん! 村へ帰れば仲間がいるし、自由に暮らしている龍たちは、もっともっと、たっくさんいるよ!」
うわー、楽しみだ! 俺は心の中でガッツポーズした。元の世界に戻れるか分からないけど、もう戻れないのなら、せめて龍たちと楽しく過ごしたい。
「村まではどれくらいあるの?」
「日が沈むまでには着くはずだよ」
気がつくと、もう日が傾いている。富士山から転落したのは、確かサークルの仲間たちと一緒に昼食をとって、トイレに行って、急いで6合目まで登ったときだった。午後2時頃だったような気がする。もうそんなに時間が経ったのか。
「そうだ! 飛んだ方が早く村に着くんじゃないの?」
さっき、リョクが森から姿を現した時に、羽を広げて音もなくスーッと浮かんで移動していたのを思い出した。今、リョクの背中を見ると、緑色の大きな羽は体にピッタリとくっ付いている。
「いゃ~、実は飛ぶの苦手なんだ」
「えっ、龍なのに?」
一緒に飛べるかと思ったのに! 残念そうな雰囲気を察したのか、リョクが説明してくれた。
「うん。さっきは足が痛かったから仕方なく飛んだんだ。片足が穴にはまってたし。歩いた方が力を使わないから楽なんだよ」
「飛ぶのって大変なの?」
「飛ぶのが得意な龍たちもたくさんいるよ。みんな、僕たちのことを緑龍って呼ぶけど、森の中が好きだから、あまり飛ぶ必要がないんだ」
「そうか。色々な種類の龍がいるんだね」
リョクを見ながら、他の龍たちの姿を想像しながら歩いた。不安は多いけど楽しみも増えたな。考えながらしばらく歩くと、眼下に家が点々と見えた。すると、リョクが教えてくれた。
「あれが僕たちの村、コルフ村だよ」
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