2時間目

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2時間目

キーンコーンカーンコーン。 体感時間では長い長い自己紹介が終わると、すぐに予鈴が鳴り、1時間目の授業が始まってしまった。 予定黒板を見ると1時間目は数学。 確か、優作先生の持ち授業は数学だったはず。 ……そうだ。夢の世界、行こう。 俺は転校初の授業が始まった瞬間机に突っぷした。 「やったーっ! 1時間目さっくーじゃん!」 「今日運いいよね!」 「私、さっくーと目合っちゃった!」 あいつは芸能人かよ。 職員室の先生が言っていた通り学校1イケメンなのは本当らしく、女の子達は先生を見ると終始キャーキャー言っている。 それはもうほかの男子なんて眼中にないようだ。可哀想なくらい。 正直めちゃくちゃ羨ましい。 早速、さっくーなんて呼ばれてるし。 ……まぁ、名付け親は俺だけどぉ? 中学の時、初めはいい先生だと思ってあだ名を付けたが、敵とわかった瞬間先生と呼ぶようにした。 さっくーって呼ぶと女子がさっくーとの距離が近くなるからNGで、敢えて先生と呼ぶことで女子に生徒と先生の距離をわからせるためにした作戦だ。 だけど、あまり効果はなかったことは秘密にしておこう。 バシッ。 「んだよ……」 頭に軽く教科書のようなもので叩かれ、夢の世界がシャットダウンした。 せっかく、お花畑でスキップしてたのに。体罰で訴えるぞゴラァ。てのは半分嘘で半分本気だけど。 「最初の授業に居眠りとはいい度胸してんな」 「いいじゃん別に~。中学の時もこうだろ?」 突っ伏したまま先生に適当に返事をすると、軽いため息が聞こえた。 これは俺なりの宣戦布告。 お前の授業なんか聞いてやるもんか! しかも、昨日楽しみすぎてなかなか寝付けなかったせいか物凄く眠い。 寝たの5時で起きたの6時だからね? 中学の時は美人の先生の授業しか真面目に聞いてなく、特にこいつの授業は起きてた時の方が少ないくらい寝ていた。 そして、その度に補習をさせられるという自業自得の日々を送っていた。 ま、俺の座右の銘は「雨垂れ石を穿つ」だし、諦めるという選択肢は俺にはない。約2年の間で石を穿つことは出来なかったけど…… それでも、あいつの慌てふためく情けない姿を見たくて俺は必死で授業妨害をしていた。 まじ俺、健気。惚れるわ。 「起きないんだったら、放課後補習な」 「おはようございますっ!」 すぐさま起き上がり、姿勢を正すと教室中に笑いが起こる。 流石に放課後補習という最強の切り札を出されては為す術もない。 霧矢隼人、あっさり敗北。 放課後補習はずるすぎだろ。 補習だけでも誰もが嫌がる単語なのに、放課後という単語まで持ち込まれたら何も言えなくなる。 放課後補習とか、刑務所での入所期間が延長するくらい嫌だ。 どうすりゃこの切り札に勝つことが出来るんだ……? そんな思考回路の中数名の女の子達がなにやら、ヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。 「隼人って顔と性格のギャップありすぎだよね~」 「ほんと! 顔イケメンなのに、めちゃくちゃ面白い」 「あんな彼氏ほしいなぁ」 はい。来ましたー。 隼人様イケメンコール来ましたーっ。 誰か遊びに行こ? ね? 優しくするからさ! 下心とかちょーっとしかないから! ニヤケるのを我慢しながら目を瞑って耳に手を当て女の子達の話を聞いていると、先生がゆっくり口を開いた。 「おい、だから集中しろ」 「聞き耳立てる事に集中してんだから邪魔すんなよ」 「はぁ?」 再びの注意に俺が反論すると呆れたのか苦笑を浮かべて聞き返してきた。 懐かしいなぁこの感じ。 中学の時のような先生とのやり取りを行い、周りを爆笑の渦に巻き込む。もう、転校初日とは言えない程その場に溶け込んでいた。 裏を返すと中学の時から俺の頭脳は成長していない、と。 ……若々しくて良いではないか! 「でもさ! でもさ! やっぱりさっくーだよね?」 「わかる! 大人の男って感じだし、イケメンだし、めっちゃいいよね!」 「禁断の恋的な?」 「きゃーっ! ドキドキするーっ!」 さっきまで、俺の事を褒めていてくれていた女の子達がコロッと先生の方へ行ってしまい、とてつもない敗北感に侵される。 くっそっ! また、俺の子猫ちゃん達を奪いやがって! 自己紹介をしてた時の分の恨みを含め俺はありったけの目力で先生を睨んでやった。 それと、ついでに中3の1学期中間テストで俺に1桁の点数を採らせた分も含んどこ。 あれは俺が悪くない。難しい問題ばっかり出したあいつが悪い。おかげで赤点ならぬ青点だったし。 「お前ら少し静かにしろ」 俺の殺意が伝わったのか、完全に俺に背を向けみんなに呼びかけた。 俺は懲りずに先生の背中に穴があきそうになるくらい鋭く睨んでやった。 『はーい』 「じゃあ、授業再開するぞ」 先生は気にせず何事も無かったかのように授業を再開する。 おい、スルーはないだろ。こんだけ睨んでるんだから何かしら反応しろよ! 泣くぞ!
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