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6時間目
家に着くと溜まっていた疲れが波の如く押し寄せてきてヘトヘトになり部屋にたどり着くなり座り込んだ。
あれから真っ直ぐ帰ろうとしたが途中で道に迷い、かれこれ家の周りを1時間ほどさまよっていた。
いやぁ、あそこでお巡りさんが通ってくれなきゃ一生帰れなかったよ。変質者って思われたけどよ。
3日前に引っ越してきたアパートの1室は大掃除をしたあとだからまだとても綺麗だ。
ワクワクドキドキの転校生デビューがこんな結果になるとはなぁ。はぁ……萎える……
とりあえず、風呂はいってこよ。
俺はダラダラと脱衣所に行き服を脱ぎ捨て軽くシャワーで身体を流した。
いつもだったら、大声で歌って疲れをぶっ飛ばしてたところだけど、生憎そんな気力すら残っていない。
さっそく近所迷惑になるのもやだし。
髪の毛を洗い終え、体を洗っていたらふと今日先生とやった事が鮮明に頭をよぎった。
「まじで、なんなんだよ」
身体がブルっと身震いし、心臓が痛いくらい鳴っている。
俺は心臓を落ち着かせようと自分の肩を力強く抱きしめた。
全部あいつのせいだ……俺の頭が、身体が、心がバカになる……
たかが1度抱かれただけなのに、寄生虫のように身も心もあいつに侵されているのが嫌でもわかった。
「責任取れよ……さっくー……」
ーーピーンポーン。
「ーーっ!?」
軽快な家の呼び鈴がなり、心臓が止まりそうになるくらい驚いた。
俺の家の場所は颯太にすらまだ教えていないため颯太が来るわけないし、誰が来たのか想像がつかなかった。
ネットで何も買ってないから宅配便なわけないしな。
「だ、誰だよ……」
動揺を隠すため独り言を呟き、軽く体をシャワーで流して素早く身体を拭き、服を着て玄関に行った。
「はーい」
ドアを開けるとそこには先生が立っていた。
学校帰りなのか学校で会った時と変わらずサラリーマンのような白いワイシャツに身を包んで、黒いスーツを手に持っていた。
「なななななんでしょかああああ!?」
予想外な人物で驚き無駄に大声を出してしまった。
今、宇宙で1番会いたくなかったのに……
てか、こいつのメンタル強っ! 気まずくねぇのかよ!? あと、なんで俺の住所わかった!?
「今日貰ったお前の個人情報が載った紙を見てきた」
「お前も心読めんのかよ!?」
「ははっ。今日のお詫びに、はい」
心の中の問いは答えるくせに口に出した問いには笑いで誤魔化され小さな箱を手渡された。
箱に表記された店の名前は俺の地元でも有名なケーキ屋のものだった。
「ケーキっ!? やったっ!」
大袈裟なリアクションを取り嬉しさを表現すると、先生は満足そうに優しく微笑んだ。
「じゃあ、俺はこれで」
「ちょ! ちょっと待てよ、せっかくだから中に入れば?」
は? 何言ってんだ俺。
このまま別れとけばいいものをついそう声をかけてしまったが訂正せずに先生の反応を待つ。帰ろうと後ろを向いた先生はゆっくり振り向き、ぎこちなく首を縦に振った。
「……ありがとう……」
「お、おう」
頬を赤く染め、お礼を言ってくる姿に少し心臓がきゅっと苦しくなった。
同じ苦しさでも帰り道の時とは違い、どこか心地の良い苦しさだった。
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