-冬-

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ホテルで朝食を終えた後、二人でドイツの街並みを散策に出かけた。 お洒落な佇まいのカフェでベーグルと紅茶を愉しんだり、物珍しい雑貨を売るお店や古い時代のアンティーク商品を扱うお店を覗いたり、原書を買いたいと言う彼と共に本屋に立ち寄ったりした。 そのどんなシーンでもごく自然にドイツ語を操る彼には惹かれるばかりで、ますます魅了されてしまうようだった……。 ……夕方になると、クリスマスマーケットに多くの人が集まって来て、私たちもマーケットが催されている聖堂前の広場にもう一度出向いた。 最初に訪れた昼間の時とは違い、大きなクリスマスツリーやサンタクロース、トナカイにスノーマンのオブジェなどが色鮮やかなイルミネーションに彩られた煌びやかな様には、まるで子供みたいにもわくわくとして心踊るみたいだった。 「少し寒くありませんか?」 開いたコートの内側に私の身体を引き寄せた彼が、「あっ…」と小さく口に出して、空を仰いだ。 彼の視線を辿り空を同じように見上げると、ちらちらと雪が舞い始めていた。 「君といると、本当によく雪が降りますね…」 彼の言葉に、いつか別荘で見たしんしんと降る雪や、ススキに音もなく降り積もっていた雪のシーンが頭をよぎった。 「この先も、あなたとずっとこんな風に、思い出を重ねていけたらって……」 「ええ、私も……君と、ずっといつまでも共にありたいと……」 頬が両手で挟まれて唇がそっと重ねられると、雪の降る寒さの中でもじんわりとあたたかな思いに包まれていくのが感じられるようだった……。
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