第2章

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 あの年は雪解けが早く、三月の中旬には河川敷を歩くことができた。 三歳になっていた三太はやんちゃさは落ち着いていたけれど、まだまだ体力を持てあましていた。父が、フリスビーキャッチなどという遊びを教えてしまったものだから、家の中でも銜(くわ)えて来ては「投げろ」とせがまれる始末だった。冬の間は思い切りフリスビーで遊ぶことができないでいたから、私もきっと三太も河川敷の雪が解けるのをこころ待ちにしていた。大学を卒業し、家の手伝いを始めた時だったので、天気を見計らっては河川敷へ散歩に出かけた。一番、人のいない時間が昼食時だとわかったのも、その頃だった。  あの日も、いつものように、ランチタイムを狙って川原へ行った。  レンギョウもユキヤナギもヤマツツジも開花には程遠く、蕾すらまだだったけれど、山からの雪解け水で増えた川の水が、都会の汚れた空気を全て浚(さら)ってくれているようで、清々しかった。  まだ、所々に泥濘(ぬかるみ)があって、三太も私も泥だらけでフリスビーをしている時だった。 急に、後ろから花のような、甘い香りが流れてきた。 「上手ですね」 振り向くと、あの人が立っていた。
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