第2章

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 そのうちに、三太が「走ろう」と、あずきちゃんを誘い始めた。 「サンタくんはリードを放していても、大丈夫なんですね」 「はい、呼べば戻ってきます。父が、毎朝もの凄く早い時間に散歩に出てて、いっつもリードをしてないみたいなんです……本当はダメですよね」 「どうやってしつけるんですか? 僕、犬飼うの初めてだからわかんないことだらけで。さっきも上からフリスビーやってるの見てて、おお、スゲーって思ってたんですよ」 「どっちも、父がいつの間にかしつけてました」 二匹は、屈む二人の周りを、交互に追ったり、追われたりしながら走っていた。 「凄いなあ、あずきもフリスビーキャッチしてくれるかなあ」 「父に、どうやって仕込んだか聞いてみますね」 「是非聞いてみて、わかったら教えてね。いつも、散歩はこのくらいの時間なの?」 「はい、お昼時が一番人が少ないんですよ。やっぱり、他の人がいる時にリードは放せないから」 「ほんとだね。全然、いない」 あの人が遠くまで見渡そうとして立ち上がると、あずきちゃんが慌てた様子で駆け戻ってきた。 「おー、あずき戻ってきた、いい子だいい子だ」 嬉しそうに抱き上げる姿から、あずきちゃんが本当に可愛くて仕方ないことが伝わってきた。遊び相手を奪われて不満なのか、ヴィンテージに向かって三太が何度も飛びかかっていた。 「こらこら、やめなさい、汚れるでしょ!」 「いいよ、こんなオンボロジーンズ。それよりも、遊んでくれてありがとうね、サンタ。また、遊んでね」 三太が、差し出された左手を、今度はペロリと舐めた。 「じゃあ、また」と、戻って行く方向から、なんとなく、あの建物と関係のある人のように思えた。 最後にまた、鮮やかな香りが私の鼻をかすめていった。 その頃は、まだ、あの建物の正体がなんであるかを知っている住民はいなかった。 本当は追いかけて確かめてみたかったけれど、そうしたら二度と会えないような気がし して、諦めた。 遠くから、サイクリングロードを走ってくる自転車が見えたので、慌てて三太を呼び戻した。
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