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「ねえ、お父さん、どうやって三太にフリスビー教えたの?」
家に帰ると、母は事務所で電卓を叩き、父は土間で仕入れた運動靴の整理をしていた。
もう、下駄屋だけでは、店は成り立たなくなっていた。
父の代に替わってからは、学校や公共施設に運動靴を卸すのが主な仕事になっていた。 その傍ら、なじみ客の下駄の修理や注文を受けた時だけ、まるのこや電動鑢(やすり)が稼働した。
私は、父が下駄を作る姿を見ているのが大好きな子供だった。父の横に座り、何時間もその様子を眺めていたものだった。
父は手を休めずに「どうだったかな、忘れたな」と首を傾げた。
「うそー、思い出してよ。ねえ、簡単にできるようになった?」
「そうだなあ、三太は賢いからなあ」
仕入れた運動靴を一足一足確かめながらも、実は父の顔はだらりとニヤけていた。ずっと犬を飼うのを猛反対していたのに、いざ飼ってみると誰よりも三太を可愛がって甘やかした。
「だからって、勝手にできるようになった訳じゃないでしょう?」
私は父が確認し終えた靴を受け取り、またひとつずつ箱に収めていった。
「どうして、そんなこと聞くんだ?」
何故か後ろめたい気持ちになりながら「ん? 犬(いぬ)友(とも)に聞かれたからさ」と、目を逸らした。
結局のところフリスビーも、お手もお座りも、「ごはん」と喋れるようになったのも、かくれんぼごっごができるようになったのも、全部、偶然一回できたことを褒めてあげたら、勝手に自分からするようになった、ということらしかった。
「三太は賢いんだもんなあ」
遊び疲れて土間のベッドで眠る三太の頭を、父がくしゃりと撫でた。
三太は一度片目を開けると、「うるさいなあ」とでも言いたげに、寝る方向を変えた。
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