第2章

6/8
前へ
/31ページ
次へ
私はその夜、あの人になんて説明したらいいんだろう、と考え続けて眠れなかった。 大学時代コンパで知り合い、何人かと付き合ったことはあったけれど、長続きはしなかった。別れを切り出すのは、いつも私からだった。 頭の中にはつねに、「この人と一緒に、店をやっていけるだろうか」という考えがあった。 その考えの中に、勿論、「父と、上手くやってくれるだろうか」というのも含まれていた。 父に紹介したいと思えるような人には、まだ出会っていなかった。 翌日、散歩に出る準備にかけた時間は、いつもの倍くらいになってしまった。 過度に着飾るのはおかしいけれど、昨日のように適当な格好では行きたくなかった。そして、いつもより長くフリスビーをしたけれどその日、あずきちゃんに会うことはできなかった。 想像以上にがっかりしてしまったから、次の日は期待しないようにと胸に言い聞かせながら、川原へ行った。でも堤防の上に立った瞬間、あの人とあずきちゃんの姿が目に飛び込んで来て、全身の血の流れが速くなるのがわかった。リードを放たれたあずきちゃんが、あの人の足元でピョンピョンと飛び跳ねている。 三太が急いでいるのか自分が焦っているのか、土手を駆け降りるときに何度も転びそうになった。 どこまで近づいてからだったのだろう、届いた香水の香りを私はとても好きだと思った。 先に気付いたのはあずきちゃんだった。少しでも早く二匹が出会えるようにと、私も三太のリードを放した。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加