第2章

7/8
前へ
/31ページ
次へ
「こんにちは」と二人同時に頭を下げ、笑い合った。 「一昨日はどうも。あの後、あずきがぐっすり寝てくれてさ。ほんと、助かったから今日も来てみたんだ」 「七か月の子は元気ですもんね」 「そーなんだよー、寝かせてくれないんだ、俺の恋人は激し過ぎて」 二回目で「です」「ます」じゃなくなり、「僕」から「俺」になっているのが嬉しかった。 「フリスビーのこと、父に訊いてみたんですけどね」 「うんうん!」 あの人が一歩踏み出すと、一段と花の香りが強くなった。 「たまたま、一回キャッチできた時にいっぱい褒めてあげたら、次からは毎回出来るようになったみたいです」 「なるほどー、やっぱり犬は褒めて育てろなんだね。ま、犬だけじゃないか。お父さんて褒め上手なの?」  そう訊かれて改めて考えてしまったけれど、少なくとも、駄目なやつだと怒られたり非難された記憶はなかった。  私が答えられないでいると「一昨日、会ったあと考えたんだけどさ」と、続けて話しだしたから、どうしてもそれを訊きたい訳ではないみたいだった。 「今まで、あずきのリード放したことなかったんだよね、どっか行っちゃうんじゃないかと思って、おっかなくてさ。ドッグランも行ったことなかったし。でも、ちゃんと帰ってきたじゃん? あれってさ、どっか行っちゃうんじゃないかって、疑ったり、無理に捕まえてようとするとダメなんじゃないか、と思ったんだよね。信頼してさ、放してやれば、ちゃんと帰ってくるもんなんだなあって。お父さんがそうしてたから、って言ってたでしょう。だから、お父さんのこと、ちょっと聞いてみたくなったんだ」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加