第2章

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 聞きながら、何故自分が子供の頃から当たり前のように店を継ごうと思っていたかがわかった気がした。 一人っ子なのだから店を継ぐのが当たり前だ、と縛りつけられていたら私はいったいどう思っていたのだろう。 「父は……ただの頑固な職人ですよ」と、照れ隠しのつもりで軽く返した。  だから、 軽く受け流されるものとばかり思っていた。  少なくとも、それまでの彼氏はみんなそうだった。父の仕事に 興味を持ってくれた人など、一人もいなかった。なのに、あの人は「へえ、職人さんなの? なんの?」と、身を乗り出してきた。 本当に興味があるように見えたせいか、知って欲しかったからなのか、私はすんなり「下駄屋です」と答えた。 「下駄? それカッコイイねえ! 今度、見に行ってもいい?」 あの人が目を見張って更に近付いてきたから、その距離と香りのせいで軽く眩暈がした。 「ああ、ええ、今度……」 曖昧に答えながら、社交辞令に違いない、と必死に思い込もうとしていた。 でもその言葉が本気だったということが、後になってわかった。
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